第七章
第50話 好きな人の好きな人
放課後。
オレは、クラスメイトとカラオケ店にいた。
海未の保育園のお迎えに間に合うように途中で抜けるつもりだったけれど、誕生会はすごく盛り上がっている。
男女で集まっている参加者は、クラスでも目立つ人たちばかりだから、オレがここにいるのは場違いなんじゃないかと思ってしまう。
でも、誘ってくれて本当に嬉しかったし、岩渕さんも参加するらしかったから、思い切ってくっついてきたのだった。
「みんなー、ありがとうなー!」
本日の主役、というタスキを引っ掛けた雉田くんが、マイクを握っていた。
「こうして俺のために集まってくれるなんて、俺、本当に愛されてるなって! 感動した! マジで俺、感動しちゃったわー!」
今にも本当に泣き出しそうな雉田くん。お誕生日席にいる彼の目の前には、いくつものプレゼントが置いてあった。
雉田くんはお調子者なところがあるけれど、ムードメーカーで愛されているから、みんなもこうして集まってくれるんだろうな。
オレが誕生会しようなんて言い出したところで、こんなに集まってくれないだろうし……でも、なんとなくだけど、鷹塚さんは来てくれそうな気がした。
プレゼントはぼくだよ? とかなんとか余計なことを言い出しそうだけど、最近はそういうのも鷹塚さんなりの冗談なんだってわかる。……たぶんね。
「俺の誕生日をちゃんと覚えてくれてるんだもんな! 本当お前らのラブを感じるよ!」
「よく言うよ。ちょい前から『あー、もうすぐ誕生日だわー』なんてわざとらしく言ってたじゃん。嫌でも意識するって」
岩渕さんが言った。
この日は別に部活の時間でもないのに、髪を後ろでまとめているレア岩渕さんだったから、オレはついついチラ見しちゃう。
「なんだよー、岩渕。冷たいこと言いやがって。でもなぁ、そんなお前も俺にちゃーんとプレゼントを用意してくれたんだもんな!」
雉田くんの手にはピアッサーがあった。
「うん。雉田、穴開けてぇ、とか言ってたでしょ?」
「おう。へへ、よく覚えててくれたよな、ありがたくもらっておくぜ!」
雉田くんは上機嫌だ。あれだけ喜んでもらえると、送った側も嬉しくなっちゃうよね。
「葉山も、ありがとうな! 中間テストも助けてもらって、こんないいモンまでもらって世話になりっぱなしだぜー」
雉田くんが頬ずりしてみせるのは、ラッピングされた手のひらサイズのシフォンケーキ。
「本当は、誕生日だしちゃんとデコレーションしたケーキにしようと思ったんだけど、放課後まで保存するのが難しくて」
「いいや、ありがてーよ! 気持ちこもってて超うまいぜ!」
その場で早速食べてくれる雉田くん。
ちなみに、シフォンケーキは人数分配ってあった。一個作るだけじゃ勿体なかったから。一応、主役の雉田くんの分だけ気持ち大きめに作ってはあるけれど。
「あーあ、これでカノジョがいれば完璧な誕生日だったんだけどなー」
「贅沢言うな」
鈴木くんが呆れながら突っ込む。女子陣からもブーイングが飛んだ。
「なんだぁ、いいだろ。それくらい言ったってよぉ! よし、ついでだ、お前らが恋についてどう考えるかトークしようぜ! 青春っぽくていいだろ?」
荒ぶる雉田くんの意向で恋愛トークが始まってしまった。
クラスメイト同士で合コンみたいな雰囲気は正直遠慮したかったけれど、一応本日の主役からの提案だからか、みんな消極的ながらも雉田くんに付き合うことになった。
参加者は男女合わせて七人。そのうち、恋人がいるのは男女一人ずつ。まあ、運動部にいる人が大半だから、恋愛しているヒマがないのかもしれない。
恋人いない勢の大半が、恋愛はしたいけど具体的に誰かを好きとかはないよねーって流れになる中。
「あ、でも葉山くんならいいかも。可愛くて」
「そうそう。なにせ『お嫁さんにしたいランキング』の一位だからねー。超優良物件よ」
見た目が華やかな女子の二人から熱視線を送られてしまい、オレの方が困ることに。
「いや、あの……」
オレには本命の岩渕さんがいるんです! なんて言うこともできず、もじもじしてしまう。
「家に帰ったら葉山くんがいるってよくない?」
「最高の癒やしだよね!」
「こらこら、葉山くんをそういういじり方しないの」
岩渕さんが間に入ってくれて助かった。
ごめんごめん、と謝る女子二人。
やっぱり冗談で言ってるだけだよねー。
どうもオレは、恋愛系の話は苦手だ。
これじゃ岩渕さんに好きって伝えるのも時間が掛かっちゃいそうだよ。
そんな中、意外だったのが、鈴木くんだ。
鈴木くんだけが「一応好きなヤツならいる」と答えたのだから。
高身長でイケメンではあるんだけど、サッカー一筋で硬派そうな鈴木くんのことだったから、当然みんなは興味を持つ。でも、それ以上のことを教えてくれなかった。
ふと、そんな鈴木くんと目が合ってしまう。
あっ、ごめん。じろじろ見すぎちゃったみたい。
でも、意外な鈴木くんに片思いの相手がいるってことは、もしかして岩渕さんも……。
「ちなみに私もフリーっすわ」
困ったように口にする岩渕さんだ。
オレのテンションはぶち上がったよね。アゲアゲマックスだよ。
岩渕さんは見た目が良くて運動もできるから、好きになる人なんて星の数ほどいると思ったから。
「岩渕は喋らないで動かなけりゃすぐ彼氏なんてできるのになぁ」
「なんだぁ、雉田ぁ。それどういう意味だよぉ? おおん?」
「そういうとこだよ。昔からすぐムキになるんだから。そんなだからメスゴリラって言われるんだぞー」
「メスゴリラだぁ!? 私の108つあるタブーの一つを口にしたなぁ、表出ろやオラァ! だいたい、いつもそんなウホウホ言ってねーだろーがぁ。バナナは結構食べるけど!」
はたからみれば、雉田くんは無神経に思えなくもないんだけど、クラスメイトは、またかって顔で見守っている。
聞けばこの二人、中学が同じで、中2、中3と同じクラスだったそうな。
……中学時代の岩渕さんを知ってるなんて、雉田くんが羨ましい。
まあ、そういう関係性なおかげで、兄弟喧嘩みたいなノリで受け入れられているっぽい。
「ねえ、待って。前から聞こうと思ったんだけど、彩珠の好みってどんな人?」
興味津々なクラスメイトがいたので、岩渕さんは、うーん、と唸りながら考え始める。
「優しい男子……かなぁ」
そんな答えに、周りのみんなは「無難~」の大合唱で苦笑いだった。
「おいおい、それじゃ答えてねえのも同じじゃねーか。優しい人なんて誰だって好きだろ~」
笑う雉田くん。
ただ、オレは違う感想を持ってたんだよね。
少し前の岩渕さんなら、きっと「恋人はバスケ! 他にいないよ!」ってキラキラした瞳で即答していただろうから。
例え、ありふれた男子像だったとしても、具体的に好きなタイプを上げた時点で、これまでとはの岩渕さんから変化がある気がする。
も、もしかして、オレが知らない間に岩渕さんがどこかの男子に恋を……!?
女バスと男バスは同じ体育館を利用することもあって何かと交流が盛んらしいし、男バスの誰かを好きになっちゃったんじゃ……。
不安になったオレだけど、それは一瞬だった。
「もー、答えたら答えたでいじるんだから。私の味方は葉山くんだけだよ」
ため息をつきながらオレの腕に触れる岩渕さん。
もしかしてオレ、岩渕さんから信頼されてる……?
たったこれだけのことで舞い上がって、不安も薄まっちゃうんだから、オレはチョロいにもほどがあるよ。
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