第51話 嬉しすぎるお誘い

 雉田くんのお誕生会は、二次会があるみたいで場所を変えようってことになったんだけど、オレは海未のお迎えがあるから遠慮することにした。


「そっかー。じゃあしょうがないよな。プレゼント、マジでありがとうなー」


 改めてお礼の言葉をくれる雉田くん。


「雉田、そう思ってるなら、葉山の誕生会のときは倍返しで礼をしてやれよ」


 びっくりするようなことを、鈴木くんが言った。


「おお、もちろんだよ! 葉山~、期待してろよな!」

「オレの誕生会……やってくれるの?」

「当たり前だろ」


 呆れ顔の鈴木くんがいた。


「……葉山、俺たちのことを友達と思ってないところがあるんじゃないか?」

「つめてーなー。あんなにあったかいプレゼントくれたのによー」


 オレの肩に肘を置きながら、やれやれという顔をする雉田くん。

 オレは別に、みんなのことを友達と思っていないってわけじゃない。

 クラスの連絡用のラインの他に、グループラインをつくってやりとりをすることもある。

 けれど、放課後の遊びにはなかなか付き合えないし、別にクラスで目立つ存在じゃないし、交流はあるけれど友達って呼べるほどの繋がりはあるのかなぁ、なんて弱気なことを考えてしまうところがあった。


「葉山には、もっとはっきりと友達だと言わないとわからないみたいだな」

「だなー。友達契約書でも交わしちゃう?」

「逆に胡散臭いだろ……まあ、俺たちは葉山が思っているより友達だと思ってるから、何かあったらこれからも遠慮なく言ってくれ」

「それな。葉山はたしかに遠慮してっかもなー」

「そうだね……気をつけるよ」


 せっかく仲良くしてくれているのに、壁を作っていると思われたら申し訳ないからね。


「そんな深刻に考えることはないぞ?」

「そうそう。自然体にしてくれりゃいいからさ」


 鈴木くんと雉田くんは、オレの背中をぽんと叩くと、クラスメイトの輪の中に入っていった。

 オレは、胸がいっぱいになりながら、クラスメイトたちを見送ろうとするのだが。


「はーやーまーくん。男子だけじゃなくて、私ともいちゃつこうぜー」

「い、岩渕さん!? なんで?」


 オレの後ろから現れて、オレの頭をわしゃわしゃする岩渕さん。


「二次会に参加するんじゃないの?」


 とっくにみんなと合流したものと思っていたのに。


「するする。でもちょっと葉山くんに大切なご相談があって。先行ってもらっちゃった」

「え、相談ってなに……?」

「実はね……」


 急にもじもじし始めた岩渕さん。

 これにはオレもドキドキして、続く言葉を待ち受けてしまう。


「買い物に付き合ってくれないかなーって。今度のお休みの日に」

「買い物?」

「まー、靴なんだけど。バッシュね。新しいの欲しくて。でも一人で行くよりは、誰か選んでくれる人いた方がいいでしょ? 私は履けりゃいい派じゃなくて、どうせなら可愛いの選びたい派だから」

「それ、オレでいいの?」

「うん。葉山くんのセンスに期待してる」


 照れくさそうに微笑む岩渕さん。

 オレなんかより、同じ部活の子とか、クラスのお洒落さんに頼んだ方がずっといいモノ見つかるよ!

 そんな無粋なことを口にせずに済んだのは、変な遠慮のせいで距離があると思われている出来事がほんの少し前に起きたおかげかもしれない。


「わ、わかった! オレでよければ!」


 こうして、オレは今度の休日に岩渕さんと二人でお出かけすることになった。


「よかったー、ちょっと緊張したし」

「オレってそんなにすぐ断りそうかな?」


 岩渕さんからも距離があると思われていたら、ちょっと嫌かなぁ。


「ううん、そんなことないよー。私が勝手に緊張したってだけだから!」


 それならよかった、って思うんだけど、オレ相手に緊張するのも変な話だ。逆のパターンならともかく。ていうか、オレの方から岩渕さんに、お休みの日に一緒にお出かけしませんかなんて誘えるわけがないしね。

 そういう意味では、岩渕さんの方から一緒にお出かけしようと言ってくれたのは、ものすごい幸運に思えてきた。


「あ、でも、妹さんたちの面倒見ないといけないんだっけ? 大丈夫?」

「日曜日なら、母さんも家にいるし大丈夫だよ」

「よかったー。私もそこまでわがまま言えないからね」


 相変わらず、妹たちにも気を遣ってくれる岩渕さんだ。


「じゃ、そういうことだから! 日曜日はよろしくね!」


 喜んで身を翻し、先行するクラスメイトの輪に入っていく岩渕さんを見ていると、引き受けて良かったと思えた。

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