第52話 楽しい待ち合わせ
そして日曜日。
待ち合わせの予定時刻より一時間早く到着したオレは、そわそわしながら岩渕さんを待っていた。
休日なので、当然私服。
オシャレには自信がないから、岩渕さんと性別が同じな美月に選んでもらおうと思ったんだけど、美月って結局いつでもスポーツウェアな女子だから。オシャレのセンスはオレとあまり変わらなかった。だから、一か八か海未に頼ることにしたんだ。手持ちの服を引っ張り出して、オシャレそうな服があったら言ってね、と声を掛けたら「あれとこれ。それはさしいろ。にいにはせがひくいから、おーばーさいずにはしないでね」と妙に詳しそうな口ぶりで選んでくれた。
そういえば、岩渕さんはどんな服を着てくるんだろう?
合宿のときは制服で、部活中はTシャツにハーフパンツ。寝るときも似たような格好だった。でも、こういうラフな格好を見たことはあっても、ちゃんとお出かけをするときの服は未だ不明だ。
気になるといえば、岩渕さんの私服だけじゃなくて、鷹塚さんのこともある。
鷹塚さんが、また学校を休んだ。
とはいえ、今は連絡先を交換しているから、休むから弁当はいらない、という内容のメッセージを受け取っていて、お弁当を無駄にすることはなかったんだけど。
いや、お弁当のことより、鷹塚さん本人のことが心配なんだ。
休むこと自体は気まぐれでたびたび起こることらしいんだけど、それが3日連続となれば、流石に何かあったんじゃないかって気になってしまう。
まあ、病気じゃないからってメッセージは来るには来たから、過剰に心配するのもよくないんだろうけど……。
「おまたせー。葉山くん早いねー」
オレの肩をぽんと叩いて、岩渕さんが現れた。
「い、いや、オレも今来たところだから!」
「ホントー? 待っててくれたんじゃないの? 隠し事はナシにしようぜー」
「……実は、三十分前から」
「やっぱり。葉山くんはその辺しっかりしてるもんね」
にこっと微笑む岩渕さん。
期待した通り、岩渕さんは私服だった。
スポーツ少女繋がりで、美月みたいなスポーツウェア……とまではいかなくても、スポーツコーデ的な私服なのかと思ったらそうじゃなかった。
白いスウェットシャツの上にデニムジャケットを羽織っていて、下は明るく爽やかな印象の花がらスカートという格好だった。
すごい……岩渕さんなのに、岩渕さんじゃないみたいだ……。身長が高いから、こういうのも似合うんだ……。
ギャップにやられたオレは、ただでさえこれから二人でお出かけをする緊張感に苛まれてるっていうのに、余計にドキドキしてまともに歩けるのか不安になってしまった。
「私より早く来てくれるし、ちゃんとカッコいい服着てきてくれてるし?」
私服を褒められて舞い上がっちゃうオレ。
違う、オレじゃなくて海未の大手柄だ。帰ったらちゃんとお礼しないと。
「私としては、そういう気遣いしてる時点でもう嬉しいんだよね」
「これくらい普通じゃないの……?」
デート……いや、お出かけの経験なんてないから、そんなもんかと思って早く来たんだけど。服だってそうだよ。オレなりにいつもと違う格好しなきゃって思ったんだ。
「いやぁ、別に経験でそう言ってるわけじゃないんだけどね? 雉田じゃないけど、私はメスゴリラ扱いだからさ」
「メスゴリラ……」
「そうそう。男子と同じ扱いが私の普通だからさー」
バスケをしているときの岩渕さんは、とてもとても世界一カッコいいと思うんだけど、そういうプラスの意味を指して「男子と同じ扱い」ってことじゃないんだろうな……。
オレにとって岩渕さんは手が届きそうにない憧れの人で、そんな人なのに気軽というよりは雑に扱えてしまう人がいるなんて信じられないけれど。
「だから、初めて男子と二人でどこかに出かけるときも、同じ感じになっちゃうかなってちょっと不安だったんだ」
それまでニコニコしていた岩渕さんだったけど、ここに来て頬がほんのり赤くなった。
「ごめん! 疑っちゃって! 葉山くんは私が思ってるよりずっとずっとちゃんとしてたね!」
「いや、全然いいよ! オレもなんか色々余計なこと考えて不安だったから!」
だって初めてなんだから、という言葉は口に出すことなくどうにか飲み込んだ。
情けないことは承知だけど……すごく嬉しくて誇らしかった。
岩渕さんと二人でお出かけできる初めての男子になれるなんて、光栄が過ぎる。
慣れないことによる不安の緊張のドキドキが、今は嬉しいドキドキに変わっていた。
「そっかぁ、葉山くんも同じこと考えてたんだ。なら安心」
「オレも……」
「……やっぱり葉山くんから見ても、これってデートっぽいアレだと考えてくれちゃってたのかな?」
「多少はね……二人で出かけるって言われたら……」
確実に思っちゃってるんだけど、オレの中でデートと確定させていたら、岩渕さんが嫌がるかなと思って歯切れが悪くなる。
「そ、そっか……」
お互いにうつむいて、無言になるオレと岩渕さん。
なんともむず痒い空気が流れる中、岩渕さんがパッと顔を上げる。
「じゃあ、今日はデートってことで手を打ちませんか!?」
「オレはもちろんいいけど……!」
あ、もちろんとか言っちゃって大丈夫かな。オレが岩渕さんを好きなことバレちゃわないだろうか。
「よし、わかったよ。言質取った」
岩渕さんの表情が変わる。
よく知っている顔だ。
コートの上で躍動しているときの、オレが大好きな岩渕さんの表情。
「デート、しようぜ」
オレに腕を絡めてくる岩渕さん。
世界の果てのどこまでもお供したい気分だった。
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