第40話 とうとう繋がってしまう
勉強会はお開きになり、オレと岩渕さんは玄関に立っていた。
思ったより勉強に熱が入り、外はすっかり真っ暗。
勉強の途中に美月には連絡を入れているから、帰りが遅いことを心配してはいないだろうけど。
急いで帰って、美月と海未のために夕食を用意しないと。
でも、夜になってるわけだし、途中まで岩渕さんを送っていくべきなのかな?
「あっ、ちょうどお母さんが車で近くを通るっぽい」
スマホを手にして、岩渕さんが言う。
「この辺で拾ってもらって一緒に帰ることにするよ」
そっか。お母さんと一緒なら、オレが送る必要もないのか……安全ではあるけどさ。
「葉山くんも一緒に乗ってく?」
「い、いやオレは大丈夫!」
岩渕さんのお母さんに会うなんて緊張しちゃいそうだから!
「妹たちのために夕ご飯の買い出しをしないといけないんだ」
時間の余裕的に、今日はお惣菜のお世話になっちゃいそうだ。まあ、美月はむしろスーパーのお惣菜の方がプレミアム感があって喜んじゃうんだけど。
「マジで葉山くんのところは兄弟仲いいよね。合宿のときもめっちゃ心配してたし。よっぽど可愛いんだね」
「小5と保育園の年中さんだからね。可愛いといえば可愛いけど、難しい年頃だから大変ではあるんだけどね」
「わかるわかる。うちの弟も最近生意気で大変なんだわ。リアル中2だからかなー」
合宿のとき、岩渕さんにも弟がいると教えてくれた。
生まれながらにして岩渕さんとひとつ屋根の下で暮らせる羨ましい身分なのに、岩渕さんに反発するなんて。血縁者だとやっぱり違うのかな。
「弟さんも運動得意なの?」
「あっちはサッカーだね。脚めっちゃ太くなってる。あとすね毛も濃くなってて、昨日それで笑ったらガチギレされちゃったっすわ」
サッカーをすることと、すね毛が濃くなることに関連性はあるんだろうか?
「あとあと、あいつ生意気だから最近全然抱かせてくれないんだよね。昔はお姉ちゃんに抱っこされてもニコニコしてたのに……」
「そりゃ年頃だから仕方ないよー」
なんて羨ましい弟さんなんだ。
そして、罰当たりな子なんだろう。
岩渕さんのハグを拒否するなんて……。
「そういえばあいつ、ちょうど葉山くんと同じくらいの背丈なんだよね。葉山くんを抱いたら、懐かしいあの感触を味わえるかも」
「えっ、で、でも体格とか違うでしょ!?」
「うん。弟の方が筋肉質かな。でも、一回ちょっとやってみていい? 一回だけだから、ほんの少し触れるだけだからいいでしょ?」
妙に鼻息が荒くなる岩渕さん。
いったいどれだけ、弟さんとのふれあいに飢えているっていうんだ……?
「キミたち、きょうだいトークはもういいかい?」
呆れ顔の鷹塚さんが、胸の前で腕を組んで立っている。
「いつまでも人の家の玄関でくっちゃべられたら困るんだよ」
「ごめんごめん。そういえば、鷹塚さんはきょうだいいるー?」
「……ひとりっこだよ」
「そうなんだ。いっぱい部屋があるのに、もったいないねー」
「キミには関係ないだろ。ていうか、きょうだいなんて面倒なだけさ。キミらの話を聞く限りじゃ、生意気だわうるさいわで面倒の極みじゃないか。ぼくは気楽なひとりっこ暮らしを満喫しているからね。親も忙しくて家を留守にすることが多いから、あれこれ言われなくて済むしさ」
すると鷹塚さんは、ニヤニヤし始めて。
「そんな環境だからこそ、できることだってあるんだよ? 気に入った子を連れ込んだりね」
「ひえっ、大人だぜ」
岩渕さんは、体を抱いて身をすくませる仕草をする。
「そ、そんなことしてたんだ……」
恥ずかしながら、オレは動揺しちゃった。
鷹塚さんはモテるとは思ってたけど……。
「葉山くん、真っ赤っ赤じゃん。ほらほら、こんないやらし王子様は放っておいて、早く帰ろ?」
「そ、そうだね。遅くならないようにしないと……」
「じゃあね、鷹塚王子。お世話になりました。また来ていい?」
「好きにすればいい。でも、ぼくの許可をちゃんと取ってくれよ」
岩渕さんを断らなかったのは意外と言えば意外だった。
もしかしたら、鷹塚さんもこの勉強会に手応えを感じているのかもしれない。
「はいはい、いきなり押しかけて、王子様のパートナーと鉢合わせちゃったら気まずいからね。葉山くんも、もう少し私の勉強に付き合ってくれる?」
「ああ、うん、いいよ。今日は岩渕さんは凄く集中できてたから、ここの環境が合ってるんだね」
「うんうん。アウェイ効果を実感できました。これからはテスト前になったらここを集合場所にしようなー」
「こら、家主に断りなく決めようとしないでくれよ」
「はいはい。てか鷹塚さん、ラインやってる? 交換しようぜー」
「キミに教えるとうるさそうだ。……葉山くん、キミとグループで繋がれるなら構わないけど?」
鷹塚さんに連絡先を教えるとすごくしつこくてめんどくさそうだから教えなかったけれど、岩渕さんともやりとりできるようになるなら、まあいいか。
「あらあら、そんなに葉山くんとメッセージしたいの?」
「もちろん。好きなときにぼくのエロ自撮りを送れるから。葉山くんの反応を楽しむ機会が増えるだろ?」
「そ、そんなの送られても困るからね! 絶対やめてね!」
結局オレは、岩渕さんの連絡先を手に入れられる誘惑に抗えず、鷹塚さんとグループで繋がることにした。
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