第10話 襲来、鷹塚玲緒

 昼休みがやってくる。

 例の告白騒動が起きた翌日なので、いつ鷹塚さんが現れるのかとビクビクしながら今まで過ごしてきた。


 猛アタックを予告した割には、今のところは実に静かなものだ。

 ひょっとしたら、この間の告白は、オレが見た悪夢だったのかも。

 なんて安心していると。


 お弁当に購買に学食に、とそれぞれのかたちでお昼ごはんにしようと動いていた教室の空気が、一瞬にして変わった。


「やあ。葉山くんはどこかな?」


 それまで好き好きにお話していたはずのクラスメイトの視線が、一斉に教室の出入り口へと向かった。もちろん、オレの視線も。

 鷹塚さんだ……。

 校内最強の有名人なだけに、注目されることには慣れているのか、たくさんの視線が集まろうとも動じる様子は一切ない。


「ああ、いたいた。よかった。今日も学校に来てくれていて」


 微笑みながらオレのもとへやってくる鷹塚さん。く、来るなぁ!


「どうしたの? そんな青い顔して。具合悪いなら、ぼくがキミを保健室へ連れて行って看病してあげようか?」

「い、いや、平気だけど?」

「遠慮しないでよ。ぼく、保健室の先生が席を外す時間を知ってるんだ。その間は二人きりでベッド使いたい放題だからさ。体の上と下が困った感じになったら、すぐ相談してくれていいからね?」


 オレの腕を抱くようにして距離を詰める鷹塚さん。

 嫌な汗をかいてしまう。

 だって、今ここには岩渕さんだっているんだから。

 変な誤解をされたくないし、鷹塚さんに言い寄られていることだって知られたくない。オレの本命は、どんなことがあったって岩渕さんなんだ。


「じゃ、お昼食べに行こうか?」

「えっ、昼……?」

「そうだよ。一緒に食べようって約束しただろ?」


 あくまで爽やかな微笑みは崩さないまでも、鷹塚さんからは有無を言わせない圧を感じてしまう。

 ここで無理に抵抗するよりは、さっさと場所を変えてしまった方がいいに違いない。

 何より、好きでもない女の子から体をくっけられてしまっている姿を岩渕さんにこれ以上見られたくなかった。


「……わかったよ。お弁当持ってくるから」

「うんうん、どうぞ。ぼくもついていくからさ」


 オレの腕を離すことのないまま、一緒にくっついてくる鷹塚さん。

 手早く自分の席のカバンからお弁当が入ったバッグを取り出して、足早に教室をあとにするのだった。

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