第3話 成人の儀

「な、何だとっ!? 我が息子アデルはスキルを授かっていないだと!?」

「はい……残念ながら。授かっているスキルの等級に応じて、こちらの水晶が輝くのですが、アデル様は光りませんので……」


 十八歳の誕生日を迎え、教会で成人の儀を受けたのだが……ゲームのアデルと同じ様に、スキルを授かる事はなかった。

 ちなみに、ハズレガチャスキルを得てから、十日毎に十年間ずっと十連ガチャを引き続けているので、俺は約四千個のスキルを得ている。

 三十を越えた頃から覚えきれなくなり、秘密のノートにスキルの名前と効果を記しているけど、正直見返さないとどんなスキルがあるのか自分でも把握しきれていないのだが……結局まともなスキルが一つも出なかったのは間違いない。

 既に取得済みのハズレスキルを取得しても、複数あるとランクアップ……なんて事もなく、普通に引き直しとなる。

 そのため一つも重複なく、四千ものハズレスキルを持っているのだが、あくまでスキルの等級……つまりレア度を測るようなので、この司祭が指し示している水晶には何の反応も無いのだろう。


「くっ……お前のような無能は我がスタンリー家の恥だ! この場でワシ自ら……」

「領主様。ここは教会です。幾ら領主様といえども、ここで剣を抜くのはおやめください」

「……アデルよ。司祭殿に感謝するのだな。お前は……そうだな。北の村ハルキルクで領主代行として村を治めてもらおう。今から昼までに荷物を纏めて屋敷を出ていけ!」


 この十年間で剣は一人前だと言われ、魔法は一通りの攻撃魔法が使えるようになった。

 先生たちからは、騎士にも宮廷魔道士にでもなれる実力があると太鼓判を押されたのだが、やはりスキルが無いと判断された事が大きいようだ。


「坊ちゃま。クレアもお供させてください! 旦那様の許可は得ております」

「えっ!? ハルキルク村は開拓村というか、こことは全然違うんだぞ!? それに、スタンリー家の遠縁の領地だし……」

「構いません。クレアは坊ちゃまの十年間の努力をずっと傍で見ておりました。坊ちゃまは決して無能などと言われるようなお方ではありません!」


 クレアに荷物整理を手伝ってもらい、いざ出発というところで、クレアが馬車に乗り込んできた。

 アデルは確か辺境の村に追放され、一人で絶望して闇堕ちした……っていう話だったと思うから、クレアが一緒に来てくれるというだけでも、既に少し話に変化が現れているのだろう。

 ……この十年間。ガチャを回しながら剣や魔法の訓練を行い、普段の言動を改めた結果だと思う。

 ちなみに、クレアは二十歳になっており、とても綺麗なお姉さんに成長している。

 とはいっても、身長はあまり伸びておらず、八歳の頃とは違って俺が抜いてしまったけど、ある部分は凄く育っていて……げふんげふん。


「クレアが来てくれると俺は嬉しいけど……本当に良いのか?」

「はい! 是非ご一緒させてください」

「……じゃあ、宜しく頼むよ。クレア」


 餞別に……と、馬車と馬だけは父親から貰い、御者も自分でやって北へ向かう。

 だけど隣には長年一緒に過ごしたクレアが座ってくれていて……あ、そうだ。


「クレア。俺の事をお坊ちゃまと呼ぶのはやめようか」

「えぇっ!? どうしてですかっ!?」

「いや、俺は屋敷を追い出された身だし、もう成人だしね」


 クレアは幼い頃から一緒にいるから、未だに俺を子ども扱いというか、頭を撫でたり抱きしめたりしてくる事がある。

 クレアが中学生くらいの時は何とも思わなかったけど、流石に今はもう抱きしめられると、いろいろとマズい。


「えぇー……お坊ちゃまの事を違う呼び方ですか!? む、難しいですね」

「普通に名前で呼んでくれれば良いんだけど。アデルって」

「――っ!? あ、アデル……様」

「様も要らないけど……まずはそれでいこうか」


 何故かクレアが顔を真っ赤に染めているけど、呼び方を変えるのはそんなに恥ずかしいものなのだろうか。

 そんな事を思いつつも、新天地に向けて楽しく喋りながら馬車を走らせる。

 ハルキルク村は、スタンリー領の最北端の更に北で、厳密に言うとうちの領地ではない。

 だけど作物が育ち難く、更に魔物が棲む死の山の麓にあるという事もあって、本来の領主がスタンリー家に管理を依頼してきたというややこしい村だ。

 おまけに屋敷から遠く離れ、馬車で数日掛かる為、途中の街や村に宿泊しながら北を目指す。

 そして、そろそろスタンリー領の最北端にある林を進んでいると……突然何かが飛んで来て、御者台に何かが刺さる。

 ……って、矢!?


「ちっ! 外したか! おい、あの男を殺るぞ! 荷物と女は、俺たちが好きにして良いってよ!」

「へっへっへ! 相当な上玉だぜ! 奴隷として売る為に、俺たちが調教してやるよ!」

「相手はスキルを持たない無能なお坊ちゃんだ! 楽勝だぜ!」


 いつの間にか馬に乗った男たちが併走していた。

 こいつらは……盗賊団かっ!

 いや……違う! 俺が……アデルがスキルを授かっていない事を知っている。

 それを知っているのは、教会の司祭とスタンリー家の関係者だけのはず。

 ……父親の雇った刺客か! クソッ! 血の繋がった息子だっていうのに、ここまでするのかよっ!

 盗賊団ではなく、俺を殺しに来ているので、おそらく逃げても無駄だろう。

 だが、俺はともかくクレアは巻き込まれただけなので、絶対に護らないと。

 そっちがその気なら……やってやる!

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