第57話 拠点
「えっと、ここがエントランスで、こっちに二十人くらい入る食堂があって、この裏にキッチンがあって、この先はお風呂ですね。あと、応接室と……」
「ちょ、ちょっと待った! クレア、流石に大き過ぎないか?」
「何を仰っているんですか! アデル様のお屋敷という事は、領主の家です。ちゃんとしたお屋敷じゃないと!」
急遽、俺の家を建てる事になったのだが、実際に済むのは俺とクレアだけだと思うんだ。
だから、そんな大きな食堂も、凄いキッチンも要らないと思うんだが。
「あと、執務室は一階ですが、寝室は二階で……」
「ちょ、ちょーっと待って! クレアさん、私二階建ての家なんて作った事ないよ!? それに、お風呂は作るのが大変だと思うし」
「えぇっ!? 南向きで三階建ての中庭付きの真っ白なお屋敷が……」
いやいやいや、俺とコートニーが作った三階建ての家は怖すぎるだろ。
獣人族の皆に手伝ってもらって、やっと二人で小屋を作れる程度の俺たちに、無茶な物を求めないでくれ。
という訳で、ひとまずタチアナたちの家と同じ小屋を作り……俺とクレアの二人だけか。
同じ小屋にタチアナたちは兄妹三人で住んでいる訳だし、何か申し訳ないな。
「あ、そうだ。ちょっと待っていてくれ」
「え? わかりました。夕食を作ってお待ちしておりますね」
クレアが食事を作ってくれている間に、土の家に住むオリヴィアの所へ。
「……という訳で、スペースに余裕があるし、土の家に比べればかなり良いと思うんだが」
「ですが、私はこの村にご迷惑をお掛けしてしまって……」
「それは、ブレアたちが改めて謝罪するって言っていたし、良いんじゃないか? クレアが夕食を作ってくれているし、おいでよ」
「わ、わかりました。その、ありがとうございます」
という訳で、オリヴィアにも同じ小屋で暮らしてもらう事をクレアに言うと、
「……うぅ、そういう大切な事は、先に相談していただきたかったです」
「ご、ごめん。まさか、そんなに拒絶されるとは思ってもいなくて」
「いえ、拒絶ではないんです。ただ、その、せっかく一つ屋根の下で二人きりというチャンスが……」
「え? なんて……」
「な、何でもありませんっ! オリヴィアさんの件については承知致しました」
よく分からないけど、了承してもらい……三人で就寝した。
翌日からは、いつもの村の営みで、俺は新しい作物を育て、村の子供たちに勉強と貨幣について教える。
クレアは新しい料理に取り組んで村人たちに教え、トムたちはオリヴィアと共に村の外へ出掛け、薬草や果物を取ってくる……という、日々を過ごす。
そんな日々が暫く続いたところで、
「おにーちゃーん! 何だか、すーっごく大きな馬車がいっぱい来たよー!」
テレーズに呼ばれて村の入口へ向かうと、キースさんの馬車の倍くらいの大きさの馬車が沢山向かって来ている。
何事かと思って入り口で待ち構えていると、見知った顔が……ブレアが馬車から顔を出す。
「アデルさーん! お待たせしましたー! 王様に事情を説明して、いろいろ持ってきてもらいましたー!」
いや、うん。確かに金銭で弁償し、家を建てる……とは言っていたけれど、それにしては荷物が多過ぎないか!?
どう考えても、この馬車の台数はおかしいだろ。
「ブレア。これは?」
「えっと、いろいろあったんだけどね。端的に話すと、王様がこの村を遺跡調査の拠点にするって。王国持ちで、村の開拓を支援してくれるって」
「え……えっと、支援という事は、あくまで俺たち主導って事で良いのか?」
「そうそう。資材とか職人は沢山連れて来たけど、あくまでアデルさんが領主なので、何処に何を作るかはアデルさんの指示に従う様にーって言われたよー!」
な、なるほど。この村を王国が乗っ取ろうなんて事は考えてないぞ……という事だろうか。
ただ、ブレアの説明を聞いた後、実際に各馬車を見ていってわかったのだが、とんでもない量の建築資材と、大勢の大工らしき人っちが来ている。
たぶん、家を建てる要員だけで三十人くらいいるんだけど……元々の村人と同じくらいいるから、宿が余裕で足りないんだが!
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