第58話 思わぬ村の拡張

「領主さん。まずはワシら職人が使う休憩所の場所を指定して欲しいのじゃが」

「すみません。誠に申し訳ないのですが、うちの村には大勢の方が泊まれる宿がないんです」


 ブレアが村の損害の弁償として、家を建てる為の大工さんたちを連れて来てくれたのはまぁ良い。

 だけど、一気に連れて来過ぎなんだよ!

 せめて先に連絡してれれば、俺とコートニーで少しずつでも小屋を作っておいたのに。


「あ、いやいや。そういう意味ではなく、ワシらの休憩所を作って良い場所を指定して欲しいのじゃ」

「え? どういう事ですか?」

「こういう大人数で作業をする時は、たいてい長期作業になるから、先ずは自分たちの休憩場所を最初に作ってから、作業に取り掛かるものなんじゃよ」


 あ、村に大人数が泊まれる場所がない事を織り込み済みって事か。

 だったら……と、シリルやコートニーと相談の上で、村を囲う堀の外側へ作ってもらう事にした。

 というのも、職人たちが休憩所を建てている間に堀を埋め、土壁も崩し、改めて囲い直そうと思っている。

 今の堀や土壁は、元々のハルキルク村の住人の数に合わせて作ったから、広さが全く合わないんだよ。


「む!? ほほう。領主さんは土を固めるスキルを持っておるのか。では、外の堀や外壁は任せるとしよう。ワシらは家が専門なんじゃ」

「わかりました。それでは、村の外側は任せてください」

「では、ワシらは家に取り掛かるとしようかのぉ」


 そこそこ年配の職人さんたちが指定した場所へ向かうと、その後を若い男性たちが追って行く。

 年功序列なのかな? と思っていたけど……違った。

 六十歳くらいに見える職人さんたちが、物凄い速さで家を作っていき、若い人たちが必死でくらいついている感じだ。

 職人さん……凄い!


「……って、見惚れてたら、堀を作る前に家が完成してしまいそうだ。……≪コンデンス・アース≫」


 土を固めるスキルを使い、堀を作りつつ壁も作っていく。

 元の堀は後で埋めるとして、とりあえず今は村に魔物が入って来ないようにするのが先だ。

 陽が沈むまでに完成させないと!

 その一心で、コートニーと共に広さを考えながら堀を作り、何とか間に合った。

 コートニーと共に安堵し、職人さんたちの休憩所の様子を見に行くと、


「ここは、内装に力を入れたくて……」

「寝室は防音対策をお願いします」

「将来を見据えて、ここに子供部屋を……」


 まさかの二階建ての休憩室が出来ており、更にクレアが職人さんたちと何かの打ち合わせをしていた。


「クレア?」

「あ、アデル様! この職人さんたち、凄いんです! 私が書いた間取りを見て、パパっと一階部分を作っちゃったんです!」

「そうなのか。ところで、何の建物を作ってくれたんだ?」

「勿論、アデル様のお屋敷です! 今は内装などはまだですが、あとで街から専門の職人さんを呼んでくださるそうです」

「えーっと……ほ、ほどほどにな」


 しかも、この話を聞いて村を見てみると、以前に建てた俺とクレアとオリヴィアが暮らす家から少し奥へ行った所に、かなり大きな作りかけの家がある。

 あのクレアが話していた屋敷をそのまま作るつもりなのだろうか。

 ……いやあの、村の住人たちと比べて、家の差が激し過ぎるんだけど。

 それなら、せめて他の住人たちの家も二回りくらい大きくしてあげて欲しい。


「ふむ。ワシらは一向に構わんぞ。予算については、国から青天井だと言われておるしな」

「えぇ……ブレアは国王に一体何を言ったんだよ」


 他の住人たちの家も改築を……と職人さんたちに相談したら、あっさり通ってしまった。

 聞けば、この村へと続く街道も広い道となるように整備され、更に死の山まで伸ばされるのだとか。

 ブレアに課せられた遺跡の調査の依頼を早くこなせるようにする為らしいけど、ぶっちゃけあの遺跡の奥って、勇者専用装備の盾があるだけなんだよ。

 物理防御も魔法防御もそれなりにあるけど、もっと優れた盾が他にあるし、何なら無くてもクリア可能だし、早く中盤……次の大陸へ移動してくれないだろうか。

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