第9話 朝の水浴び

 翌朝。やけに重い毛布を不思議に思って目が覚める。


「……なるほど。重く感じる訳だ」


 昨晩からソフィの寝相が悪いとは思っていたが、上から俺に抱きつくようにして熟睡していた。

 俺は抱き枕ではないんだが。

 とはいえ隙間風が吹き、毛布も薄いので、ソフィは寒かったのかもしれない。

 元気になって早々に風邪を引かなくて良かったと思っておこう。

 ひとまず、起こすのも可哀想だと思って、この後何をすべきか考えていると、良い香りが漂ってきた。


「――っ! 良い匂いがする! ……あ、領主様か」

「いやいやいや、俺は良い匂いじゃないと思うよ? そうじゃなくて、クレアが作ってくれた朝ごはんだと思うよ」

「ごはんっ! ……あ、おはよー! 領主様」

「う、うん。おはようソフィ。起きられる?」


 起き上がったソフィと共に隣の部屋へ行くと、案の定クレアが朝食を作ってくれていた。


「クレア、おはよう」

「アデル様、おはようございます。今朝は気持ちよさそうに眠られていましたね」

「え? あ、あぁ」


 何故だろうか。クレアの機嫌が少し悪い気がする。

 いや、もちろん表情は笑顔なのだが、八歳の頃からずっと一緒に居るから、何となくわかってしまうんだよな。

 ……今朝、俺が眠っている間に何かあったのか?

 そんな事を思いながらも、クレアが作ってくれた美味しい朝食をいただくと、


「領主様ー! クレアも、水浴びに行こー!」


 元気になったのが嬉しいのか、ソフィが抱きついてきた。

 そういえば、この村では水道も井戸もないから、朝に汗を流すんだったな。

 ついでに、そこで洗濯もするらしく、ソフィが着替えを用意している。

 それに倣って、クレアも着替えを用意してくれているが……衣類か。

 ソフィだけでなく、シモンや村の者たちも服がボロボロだった。

 食料や調味料といった類は、この村へ来るまでに何度も買い足していたが、衣類は買わなかったな。

 これもハズレスキルを合成して何とか出来ないか、後で考えよう。


「ソフィ! おはよー!」

「テレーズ、おはよー!」

「あっ! 領主様! ポテト、ありがとー! とっても美味しかったよー!」


 シモンは朝食前に水浴びを済ませたと言うので、クレアとソフィの三人で湖に向かっていると、昨日シモンが呼びに行き、ポタージュスープを振舞った少女の一人が近付いてきた。

 テレーズと呼ばれた少女はソフィの一つ年下で、隣の家に住んでいるそうだ。

 二人共、こうして元気になれた事を喜びあっている。

 良かったな……と思っているうちに、目的地である湖に着いたと思うと、ソフィとテレーズの二人があっという間に服を脱ぐ。


「えっ!? えぇっ!? ちょっ……」

「あ、アデル様っ! 年頃の女の子の裸を見ちゃダメですっ!」

「いや、見てない……というか、俺の目の前でいきなり脱ぐとは思っていなかったんだよ」


 クレアが俺の正面に立ち、俺も慌てて視線を逸らす。

 いや、二人とも中学生くらいなんだから、もう少し恥じらいを……


「あれ? 領主様ー! 早く行こうよー! 気持ち良いよー!」

「おねーちゃんも一緒に入ろ?」


 って、いつの間にか二人がすぐ傍に居るっ!?


「そ、ソフィちゃんもテレーズちゃんも、アデル様は男性なので……」

「知ってるよー? 何かダメなの?」

「えっ? いや、何がダメって聞かれると……あれ? ダメ……じゃない?」


 いや、クレアが説得されてどうするんだよ。

 ここは領主として、ビシッと注意しておかないと。


「……こほん。えっと、二人共……」

「えーいっ! さぁ、領主様! 行こ行こーっ!」

「あ、ちょっ、待って! 腕力が、強いぃぃぃっ!」


 ソフィとテレーズの獣人族二人に腕を引っ張られて勝てる訳がなく、服のまま湖の中へ。

 いや、確かに洗濯を兼ねるとは聞いたけど、ワイルド過ぎるよっ!


「アデル様っ! もうっ! わ、私だって負けませんからっ!」


 何故かクレアまで脱いで……目のやり場に物凄く困りながら水浴びと洗濯を終え、着替えてシモンの家に戻ってきた。


「……シモン。ソフィがいきなり俺の前で全裸になったんだけど……良いのか?」

「え? まだソフィは十歳だし、そういうものでは?」

「いや、十歳だからって……って、十歳!? ソフィが!?」

「そうですが……ん? もしかして、人間族と成長速度が違うんですか?」


 ソフィは十五か十六に見えて、シモンは二十三か四くらいに見えると伝えると、


「えぇ……俺はまだ十六ですよ? あと、この村で俺が最年長なので、代表を務めているだけです」


 まさかの年下だという事が判明した。

 どうやら、獣人族は身体の成長がかなり早いようだ。


「ちょ、ちょっと待ってください。という事は、この村で最年長なのは、二十歳の私なんですかっ!?」

「えぇっ!? 二十歳っ!? クレアさんもアデル様も、十二歳くらいだと思っていましたっ!」


 な、なるほど。だから、昨日はクレアと同じ部屋に泊まらせたのか。


「領主様ー! 遊ぼーっ!」


 そんな中でソフィが無邪気に抱きついてきたけど、十歳だと言われれば年相応に思えるのだが……その、なんだ。ソフィの身体は女子中高生くらいだから……くっ! しゅ、修業だ。これは平常心を鍛える修行なんだぁぁぁっ!

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