第70話 頑張る戦士ロナルド
「ふむ……どうやら、この門は攻撃を反射してくるようだな」
「そ、そうなんですよ。奥の手のミックさんも大変な事になっちゃいましたし、一体どうすれば……」
「任せろ。こういう時こそ、タンクである俺の出番だ」
ミックに続き、アポクエで仲間になるはずの戦士、ロナルドが馬車から降りてきた。
攻撃力と防御力、生命力が高く、敏捷性が低くて魔法が使えないという典型的な戦士であるロナルドが、地面に落ちている破壊槌を一人で持ち上げる。
おそらくミックと同じ様にメイナードに雇われ、冒険に出る代わりにしっかり鍛えていたのだろう。
「行くぞっ! おりゃぁぁぁっ! ……ぐっ! ……まだまだぁぁぁっ!」
ロナルドが破壊槌を持って門に突撃し、自身の攻撃と同じダメージを受けながらも、回復ポーションをがぶ飲みしながら突撃を繰り返す。
残念ながら、俺のダメージ反射を掛けた鉄の門は、この我慢して攻撃を繰り返す……という攻略法が正解で、門の近くに居る獣人たちの動揺が伺える。
「あ、アデル様っ! このままでは門が……」
「そうだな。次の手の準備をしてくるよ」
心配そうなクレアに声を掛け、物見櫓を降りていく。
「ロナルド様っ! 流石ですっ! あと一息っ!」
「門に亀裂がっ! もうちょっとですっ!」
「ロっナっルっドっ! ロっナっルっドっ! ロっナっルっドっ!」
鉄の門が内側に大きくへこんで降り、亀裂から見えるメイナード側を見ると、物凄く士気が高い事がうかがえる。
さて、では俺の番だな。
「≪鉄鍛造≫」
鉄を加工するスキルを使い、大きくへこんで亀裂の入っていた門を一瞬で元通りに直すと、
「えっ……そ、そんな」
「ろ、ロナルド様っ!? お、起きてください! あと少しだったんです! た、確かに今は修復されてしまいましたが……」
「だ、誰か……ロナルド様を励ますんだっ! あぁぁぁっ、帰らないでくださいっ! ロナルド様ぁぁぁっ!」
どうやらロナルドの心を折ったようで、完全に門への攻撃が止んだ。
物見櫓へ戻ると、クレアが指し示した方角に、放心状態でトボトボと街道を歩いて行くロナルドの姿が見えた。
さて、次はどうする気だろうか。
そう考えていると、馬車の御者台だけ……チャリオットに乗っている者が馬を走らせ、その勢いで槍を投げてきた。
どうやら門ではなく、壁の上に居る俺たちを狙ったようだけど、届く訳がない。
壁に当たって弾かれ、投げた槍が堀へ落ちて水に沈んでいった。
「……どうしよう」
おそらく、投げた後の事を何も考えていなかったのだろう。
チャリオットに乗った手ぶらの男がオロオロして……あ、諦めた。
アサシン・ギルドから報告を受けているのか、壁を上ろうとする者も居ないし、これはもしかして、門だけで完封勝利だろうか。
まぁ基本的にこういうのって防衛側の方が圧倒的に有利だしね。
ひとまず、もう何も手段が無いのであれば早く帰って欲しいのだが……暫くすると剣と盾に、鎧を着こんだ完全武装の父親、メイナードが馬車から降りてきた。
「アデルぅぅぅっ! 聞こえているのだろう!? このような卑怯な事をせず、我と一騎打ちをせよ!」
メイナードが大声で叫びだしたけど、いきなり大勢で押し寄せてきて、宣戦布告も無しに門を破壊しようとした事を、もう忘れたのだろうか。
それとも、卑怯という単語の意味を知らないのかな?
とはいえ、実はこうなる事も想定していた。
なので、もしも相手が一騎打ちを申し出て来た時の対応をシモンに依頼しており……早速実行に移される。
「我が主と一騎打ちをしたければ、先にそのつもりがある事を示されよ。具体的には、一騎打ちをする者を除き、全員その橋から向こうへ下がってもらおう」
「むっ……わかった。おい、お前たち。全員橋の向こうへ。……わかっているな?」
「わかっております。では、一旦橋の向こうへ下がりますね」
門の内側からのシモンの言葉に従い、メイナードを残して全員堀から向こうへ移動したので、
「ソフィ。テレーズ。これをあの橋に向かって思いっきり投げつけてくれ」
「はーい!」
「うん、わかったー!」
土を固めて作った大きな岩を、壁の上で投石担当として待機していた二人に投げてもらう。
獣人族の力で投げつけられた岩は、橋を破壊し……メイナードだけが、こちら側に残る。
「なっ!? これでは、我が一人しか……」
「一騎打ちが望みだったんだろう? 父上」
土を固めて滑り台を作り、一気に地面の下まで降りると、久々に父親と向き合った。
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