第69話 門前払い
キースさんからアデルの父、メイナードが向かって来ているという話を受けた数日後。
「領主様ー! あのねー! 大きな馬車が向かって来てるよー! 見た事ないやつもあるー!」
テレーズに言われて急いで物見櫓に登ると、数十人の集団と馬車が三台程近付いてきていた。
先頭には大きな槍を持って馬に乗った者たちが数名いて、その後ろには御者台だけの馬車……いわゆる、チャリオットという戦闘用の馬車みたいなものが四台。
その後ろには徒歩の者が居て、更にその後ろに馬車と続くので、おそらくメイナードは最後尾の馬車に居るのだろう。
「皆、すまないが力を貸して欲しい! 今まで夜中に刺客を送って来ていた張本人だ!」
「奴らのせいで、妹が一時期不眠症になっていた。絶対に許さん!」
「領主様の命を狙っていた奴ら……返り討ちにします!」
壁の内側では、村の獣人族を中心に迎撃部隊が組織されており、移住してきた者の中で志願した者たちも数名混ざっていた。
ちなみに、ソフィやテレーズは物見櫓から更に上へ登ってもらい、上から石を投げてもらう手筈になっている。
落ちないように囲いや命綱も用意しているけれど、決して無理はしないでもらいたい。
「門を閉ざせ!」
こちらから攻撃して、万が一にもメイナードの一行ではなく、無関係の旅団だった場合は謝罪では済まされない。
なので、夜しか閉めていない門を閉じて相手の様子を窺っていると、先頭の馬車から丸太が出てきた。
これは門を破壊するつもり……だよな?
「あ、アデル様っ! あれってマズいのでは!?」
「そうだね。問答無用で宣戦布告と考えて良さそうだね」
「ど、どうしましょう!? 村が壊されちゃいます!」
慌てるクレアを他所に、物見櫓から覗いていると、十人程が丸太……破壊槌を持ち、門に向かって突撃してきた。
「――っ!?」
「がはっ!」
「な、何か……痛っ!」
破壊槌を持っていた男たちが悲鳴を上げて、その場に倒れる。
当然、こういう事は想定していたからね。
「あの、アデル様? 何が起こったのですか?」
「あの鉄の門には、受けた攻撃を反射する、ダメージ反射というスキルを掛けてあるんだ」
「そ、そんな事が出来るんですか!?」
「あぁ。とは言っても、受けた攻撃を無効化する訳ではないから、攻撃を受け続ければ、いつかは壊れてしまうけどね」
『ダメージUP(強):蚊』スキルと『鏡面磨き』スキルを組み合わせて出来た、この『ダメージ反射』のおかげで、破壊槌の衝撃がそのまま向こうに返っている。
門もへこんでいるかもしれないが、それ以上に向こうの男たちの心を折ったようで、次の突撃がない。
これだけで尻尾を巻いて逃げてくれると嬉しいのだが、当然そんな訳はなく……二つ目の馬車から、どこかで見た事のある老人が降りてきた。
魔法使い然とした格好で、緑色の帽子とマントを着けており、手には先端に紅い石が付けられた杖……おそらく、アポクエの店売り最強武器、ルーンの杖を持っている。
「……あっ! あいつ……ミックじゃないか!」
「お知り合いですか?」
「いや、知り合いって訳ではなくて、一方的に俺が知っているだけなんだけど、見ての通りの魔法使いだ。……大丈夫かな」
ミックはアポクエに出てくる、本来の主人公パーティの魔法使いだ。
どういう訳かブレアのパーティの魔法使いが若いベンだったけど……もしかして、アデルが生きていたが為に、ブレアよりも先にメイナードから勧誘されていたという事だろうか?
だから、ブレアのパーティにはアポクエに登場しないベンとヴィンスが仲間に入っていたのかも。
しかも、ブレアたちが序盤で手こずっている間、しっかり鍛えていたらしいのと、メイナードから良い装備品を渡されているようで、
「……≪フレイム・カノン≫」
ベンが使っていた火の弾を飛ばす魔法、ファイアボールの上位互換となる、巨大な火炎弾を飛ばす魔法を使用してしまった。
当然ながら、あの門は飛んできた火炎弾も反射する訳で……
「うぎゃあぁぁぁっ!」
「ほ、堀に飛び込めっ! 早くっ! ……誰か、蹴り落とせっ!」
術者であるミック本人だけでなく、周囲の男たちも巻き込んで身体が燃え、次々と堀に飛び込んでいく。
うん。予想通り、大丈夫じゃなかった……ミックが。
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