第71話 VSメイナード
「アデル……久しぶりだな」
「えぇ、お久しぶりです。父上」
アポクエにおいて、アデルの父親であるメイナードと対峙する。
「今、降りてきた土のスロープといい、攻撃を反射する門といい、お前自身は無能だが、それなりのスキルを持つ部下には恵まれたようだな」
「この村に俺の部下なんていませんよ。全員、この村に住んでくれている住人であり、仲間です」
「はっ! 何を言い出すかと思えば。聞いているぞ。ここに住んでいるのは、獣人族や冒険者崩れだろうが。高貴な我がスタンリー家の血とは程遠い者ばかりだ」
こいつは……相変わらずだな。
貴族だから、何だというのか。
「そのスタンリー家では無い者を雇い、返り討ちにあっているのですが、現状を理解していますか?」
「ふっ! 卑怯な攻撃ばかりで見るに堪えなかっただけだ。それより、分かっているな? これは一騎打ちだ。中の者に手出しさせるなよ?」
「勿論。そんな必要ありませんから」
「口では何とでも言える。壁の中に閉じこもって出て来ないような、卑怯で無能なお前はスタンリー家に不要だっ! 我の見る目が無いなどと、誰にも言わせはせんっ!」
そう言って、メイナードが突然剣を抜き、斬りかかってきた。
どの口が卑怯だと言うのか。
ただ、こいつが俺に執着している理由は分かった。
優れたスキルを授からなかった俺を無能だと言って殺そうとしたが、生き延び、ハルキルク村が大きく発展した。
正直言って村が発展したのは俺よりもブレアのおかげという所もあるのだが、こいつからすれば、そんな事は関係なく、無能呼ばわりしていた俺の評判が王都にまで届いているのが気にくわないのだろう。
ブレアが国王などにも、この村の事を話しているから、王族や貴族などから、俺を追放したメイナードは見る目がないと言われ……プライドが傷ついていると言ったところか。
「……くだらねぇっ!」
貴族がメンツなどを気にする生き物だというのは何となくわかっていたが、そんな理由で父親が実の息子に手を掛けようとするなっ!
「はぁっ!」
「チィッ!」
メイナードはアデルのスキルの事しか見ていなかったが、アデルとして意識を得た俺は、追放されるまでの約十年間、毎日剣技と魔法の鍛錬を積んでいたんだ!
お前は、俺にスキルで負けるんじゃない!
俺の努力の結果に敗北するんだっ!
「せぃっ!」
「なっ!?」
俺の下から上へと切り上げた一撃で、メイナードの剣が手から離れ、堀の中へ落ちて沈んでいく。
「俺の勝ちですね」
「ま、待て! アデル、落ちつけ!」
「落ち着いていますよ。動揺する理由が一つもありませんから」
アデルとして行動するようになって追放されるまで、食事などはいつもクレアと一緒で、こいつとは殆ど顔を合わせた事がなかった。
だから俺にとっては、アポクエのメイナードというキャラとしてしか見る事は出来ず、何ら感情移入する事もない。
その気になれば、このまま首を落とす事だって、何の躊躇いも無く出来るだろう。
だが、そうしないのは、あくまでアポクエのイベントの為だ。
ここで殺してしまったら、ブレアのストーリー進行に支障が出るかもしれないからな。
しかしメイナードは、これを盛大に勘違いしたようだ。
「ふはははっ! やはり実の父親は斬れぬか! 甘い、甘いぞ! 我の真の力を見せてやろう! ≪シャドウ・レゾナンス≫」
メイナードがスキルを発動させると、足元の影が小さくなっていき……完全に影が消えた。
より正しく表現すると、影が消えたと言うよりも、メイナード自身が影になったというべきだろうか。
「ふっ、驚いて声も出ないようだな。お前の前で使った事はないが、我は影と共鳴し、その力を自分のものにしたのだ。つまり、我のありとあらゆる能力が全て倍になっている! 本気を出した我に、スキルを持たぬお前では勝ち目はないぞっ!」
「そうですか。≪影斬り≫」
出来れば最後までスキルを使わずに終わらせたかったが……手にした黒い刃で、俺はメイナードの身体を一刀両断した。
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