第72話 新たなバトル?
「なっ!? 貴様、実の父親を斬るなん……て」
「実の息子を殺そうとしていた奴が何を言っているんだ」
黒い刃で斬られたメイナードがその場に倒れる。
これで……終わりだな。
「あ、アデル様ぁぁぁっ!」
戦いが終わったと判断したのか、俺が降りて来る為に作った滑り台を使って、クレアが滑り降りてきた。
物見櫓はマンションの五階くらいの高さがあるというのに、怖くないのか!? と思っているうちに、クレアが思いっきり抱きついてくる。
「アデル様、御無事で良かったですぅぅぅっ! 実のお父様が相手だったんです。辛かったですよね。アデル様には、ずっと私がついておりますからね!」
「いや、あの。クレアが一緒に居てくれるのは嬉しいけど、別にそれ程辛い事は……」
「領主様ぁぁぁっ! 大丈夫っ!? 怪我してない!?」
クレアの行動を見たソフィとテレーズも降りてきたけど……いや、マジでその滑り台は怖くないの!?
結構、急な角度だし、高さもあるし、いやクレアが降りて来られたのだから、獣人族のソフィとテレーズなら余裕なんだろうけどさ。
「領主様! きっと勝ってくださると信じておりました!」
「領主様、万歳!」
クレアやソフィたちの声を聞き、タチアナやシモンたちも門を開けて出てきた。
しかし、住人の皆が押して来るから、俺の顔がクレアの胸に埋もれて息が……とりあえず酸素! 酸素をっ!
空気を求めてもがいていると、俺の状態を理解したのか、皆が少し離れてくれて、何とか事なきを得た。
いや、死ぬかと思ったけど。
「少し待っていてくれ。最後の仕上げだ。≪転ばぬ先の夢≫……俺、アデルに対する、あらゆるネガティブな行動」
よし。これでメイナードが、今後俺に対して何かする事はないだろう。
「あれ? アデル様。それって、行動を制限させるスキルですよね? でも、お父様を斬られてませんでしたっけ?」
「ん? あぁ、父上が攻めて来るのがわかっていたから、準備を進めていたっていう話はしただろ? さっき倒したのも、その準備していたスキルを使っただけで、殺してはいないよ」
『影斬り』のスキルは、『影絵』スキルと『水切り』スキルから作った、影だけを斬って、精神的ダメージを与えるスキルだ。
アポクエのメイナードの能力は知っているからな。
能力が倍になるシャドウ・レゾナンスを使っている時は、メイナードが受けるダメージも倍になるので、影斬りで精神的ダメージを思いっきり受けて、昏倒しているだけだ。
という訳で、ソフィたちに壊してもらった橋を土を固めるスキルで再び作成し、目覚めないメイナードを様子見している仲間たちへ引き渡す。
「殺してはいないから、連れ帰ってくれ」
「……こ、このまま帰って良いんですか?」
「あぁ。今後この村へ何かしようとしない限りは、俺がアンタたちに報復したりする事もない」
「あ、ありがとうございます! 失礼しますっ!」
メイナードが馬車に積み込まれ、逃げるようにして街道を走って行った。
これで、ブレアもいないし、メイナードは俺に対して何も出来ないし……あとはハルキルク村でのんびり暮らすだけだっ!
「さて、アデル様。脅威も去りましたし、今度こそ新居で私と二人っきりで暮らしていきましょうね」
「えっ!?」
「何か問題でも? さっき、私とずっと一緒に添い遂げてくださると言いましたよね?」
俺、そんな事言ったっけ!?
というか、クレアはどさくさに紛れて、何て事を言っているんだ!?
「待ってよー! ソフィも、領主様と一緒に暮らしたいー!」
「テレーズも、ソフィちゃんとお兄ちゃんと一緒がいいなー!」
「テレーズが一緒であれば、姉の私も一緒で構いませんよね?」
いや、ソフィとテレーズとタチアナも何を言っているんだ!?
あとクレアは、幼いソフィやテレーズに頬を膨らませて対抗しないように。可愛いけどさ。
「アデル様。私と一緒に暮らしていくんですよね!? 二人で暮らしていく事を想定して、新居は私がいろいろと設計したんですし」
「領主様ー! ソフィも一緒に居て良いでしょー? いつも同じベッドで寝てる訳だしー」
「領主様。あの森で二人きりで過ごした仲ですし、私やテレーズも構いませんよね!?」
いやあの、それぞれ変な事を言うのは止めてくれないだろうか。
と、とりあえず、これまで通りに暮らしていくのはダメなのか!?
ひとまず、せっかく大きな戦いを乗り越えたんだから、のんびりしないか? スローライフ……スローライフをっ!
外部との戦いはなくなった……が、また違うバトルでドタバタした賑やかな日々をおくる事になってしまった。
いつになったら落ちつけるかはわからないけど、無事に脅威を排除し、俺は村の仲間たちと共に楽しい日々を過ごせるようになったのだった。
了
無能と言われて闇堕ちした悪役貴族に転生したら、毎日ハズレスキルが貰えるようになった。四千個のハズレスキルを合成して、新たなスキルを作れるようになった俺は最強かもしれない。 向原 行人 @parato
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