第13話 緊急事態

 翌朝。結局、昨晩もクレアと共にソフィの部屋に泊めてもらう事になってしまい、三人で朝の水浴びを済ませてきた。

 ソフィが無邪気に脱いでしまうのは仕方がないとして、クレアが脱ぐのは違うと思うのだが……


「こ、この村ではこれが普通みたいですし、郷に入っては郷に従えと言うじゃないですか」


 そう言いながらも、恥ずかしそうにしているので、早く何とかしてあげたいと思う。


「しかし、アデル様。随分と頑張りましたね」

「うん。自分でもそう思う。だけど、木材を加工する術がなくて門がないから、まだ不完全だけどね」


 頑張った……そう、頑張ったんだ。

 昨日、土を自在に固められるスキルを得たので、堀を作ると共に、その堀の土を壁にして、村の周りをぐるっと囲んだ。

 とはいえ、完全に囲ってしまうと出入りが出来なくなるので、街道がある東側と、湖がある西側だけは馬車が通れる程の幅を残してある。

 だが、ここから魔物が入ってきてしまうので、夜中だけ壁を作り、朝になったら移動させる事にした。

 本当はここに木か鉄の門を作りたいのだけど、今は材料がないからね。


「とはいえ、これで夜に畑を魔物に襲われる事もないだろうから、農業を再開出来るな」

「食材が多い方が、いろんな料理が作れますし、楽しみですね」

「そうだな。当面の食料はポテトで我慢してもらう事になるけど、元の……いや、それ以上の生活に出来るはずだ」


 農業を再開し、村の利便性も改善して、俺とクレアが数日居なくても何の問題も無い……そうなったら、一度街へ行こうと思う。

 調味料や衣類に、昨日思い付いた穴を塞ぐスキル――キュア・ホールを活かす為の素材を仕入れないと。

 そんな事を考えていると、俺とクレアの前をスキップしながら無邪気に歩くソフィが何かに気付いたようで、突然足を止めて空を見上げる。


「ソフィ。どうかしたのか?」

「……領主様ー! あれ……」

「ん? えっと……鳥か? 随分と速いな」

「ううん。あれ、ワイバーンだよー! お兄ちゃんを呼んでくるねー!」


 そう言って、ソフィが家に向かって駆けていく。

 ちなみに、ワイバーンというのはアポクエの中盤に出て来る魔物で、飛竜とも呼ばれる。

 高速で飛ぶので、こちらの攻撃はなかなか当たらないし、万が一掴まれたり咥えられたりしたら、そのまま上空に舞い上がられ……考えたくもないな。

 暫くすると、ソフィがシモンを連れて戻ってきた。


「……確かにあれはワイバーンですね。マズいな……」

「ワイバーンが襲ってくるのか?」

「はい。以前、襲われた事があります。あの時は武器があったので追い払えましたが、その戦いで殆どが壊れてしまったので……」

「なるほど。どんな武器があったんだ?」

「ご覧になられますか? 村の倉庫に保管してあります」


 四人揃って、村の端にある倉庫へ。

 途中でテレーズを見かけたので家の中へ入るように言うと、その一方でシモンが兄を呼ぶようにと依頼する。

 シモンに話を聞くと、テレーズの兄とシモンを含めた、四人が村人の中で戦う事が出来るらしい。


「こちらが、先程お話しした村の武器です」

「なるほど……これか」


 倉庫にあったのは、石の矢じりがついた木の弓矢が一つと、折れた石の槍が四本……か。

 弓矢は壊れてなさそうだけど、どちらもアポクエの最序盤以下の武器だ。

 とはいえ、素手よりは当然良いだろうし、折れた石の槍を急いで修復できないだろうか。


「そうだ。俺は魔法で戦えるから、俺の剣をシモンが使うというのは?」

「残念ながら、俺たちは剣の使い方を習った事がないので。槍とか斧なら、狩猟などで使った事もあるのですが……」


 となると、やはり槍を修復すべきか。

 長い木の棒の先端に尖った石を括りつけただけの簡易なものだが、その木の棒が途中で折れてしまっている。

 これでも攻撃は出来そうだが……いや、ちゃんと槍の長さは欲しいよな。

 何か武器を修復したり、作り出したり出来るスキルが作れないだろうかと、スキルを記載したノートを適当に開いたところで、


「た、大変だ! シモン! ワイバーンが降下してきたよっ!」


 シモンと同い歳くらいの獣人男性が倉庫に飛び込んできた。

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