第14話 ワイバーン
倉庫へ入ってきた獣人族の男性がシモンに声を掛けた後、
「とりあえず、僕は弓矢で追い払ってみるよ」
そう言って弓矢を手に大慌てで出ていった。
弓矢は壊れていないものの、矢は五本程しかないように思える。
どれだけ獣人族の身体能力が優れていようとも、流石にあれで倒せるとは思えない。
せめて上手く牽制出来れば良いのだけど……やはり、この石の槍をどうにかしなければならないようだ。
考えている時間はない。
さっき開いたノートに書かれている、いつか取得した十一のスキルにサッと目をやる。
『方向感覚(弱)……何となく方角がわかる気がする』
『フリーハンド……定規なしでも、それなりに線が綺麗に引ける』
『好感度UP(弱):植物……植物に好かれる』
『四則演算……一桁同士の計算が出来る』
『さくらんぼ結び……口の中でさくらんぼが結べる』
『感知(弱):虫……近くに虫がいる時、何となくわかる気がする』
『グロウ・ビーンスプラウト……もやしを急成長させる』
『防御力UP(強):首輪……首輪装備時に防御力が増大』
『水上走行(弱)……水の上を走ると、一歩目だけ足が沈まないが二歩目で沈む』
『シール・ソード……一度だけ、対象の剣が鞘から抜けなくなる』
『ブラッシング……髪の毛を上手にとける』
修理に使えそうなスキルは……ない。
他のページは……いや、見たところで同じだろう。
他に使えそうなスキルはないかと、百や二百と目を通していたら間に合わない。
この十個で考えるんだ!
何か槍を修理するのに使えそうなスキルを……よし、これだっ!
「≪スキル合成≫使用。グロウ・ビーンスプラウトと攻撃力UP(弱):木の枝」
――『グロウ・ブランチ』スキルを入手。枝を急成長させます――
時間もないので、すぐさま取得したスキルを石の槍に使ってみる。
「≪グロウ・ブランチ≫」
スキルを発動させると、折れた槍の柄がグングン伸び始め……ちょっと太くなってしまったけど、槍と言えるくらいの長さにはなった。
「シモン。この槍は使えるだろうか」
「勿論です! ありがとうございます! 俺も行ってきます!」
そう言って、シモンが直した槍を手に倉庫を飛び出す。
続けて残りの三本を伸ばすと、その内の一本を手にする。
「クレアとソフィは、この倉庫の中に居てくれ。決して外に出ないように」
「わ、わかりました」
「あと、戦える村人が二人居るらしいから、残りの二本の槍を渡して欲しい」
「あ、アデル様。どうか御無事で!」
今にも泣き出しそうなクレアに大丈夫だと言って大きく頷き、不安そうな表情を浮かべるソフィの頭を撫でると、すぐに外へ。
先程はかなり上空に居て小さく見えていたワイバーンが、今は村のすぐ上……かなり大きく見える。
「はっ!」
弓矢を持った獣人が矢を放ち……ワイバーンの翼に命中したものの、傷一つ付けられない。
やはりあの弓矢では目を狙うくらいしかダメージにならない気がする。
「これを使ってくれ!」
「折れて……ない!? ありがとうございます!」
弓矢を置いた村人が、俺が投げた槍を受け取ると、すぐに構え……って、構え方が変じゃないか?
槍を片手で持ち、肩の上から……投げたっ!?
ワイバーンが空中に居る以上、槍を構えても意味がないが、とはいえ投げるというのは……え? メチャクチャ速い!?
獣人族のしなやかな筋肉のバネを使って打ち出された槍が、凄まじい速さで飛んで行き、翼に直撃する。
貫通はしないものの、ダメージは与えたようで、ワイバーンが態勢を崩す。
「はぁぁぁっ!」
そのチャンスを逃すまいと、シモンも槍を投げる。
獣人族たちの槍の使い方は俺の想定とは違ったものの、しっかり効いたようで、ワイバーンが落ちてきた。
だが……その目はまだ死んでいない!
「≪ウインド・アロー≫」
スキルではなく、十年間の勉強で身に着けた風の矢を放ち、更にワイバーンへ追い打ちをかけると、完全に地面へ落下した。
再びワイバーンに飛ばれたら、逃げられ、村への復讐心を抱いたまま成長していくかもしれない。
そんな事にならない為にも、剣を抜いて落下地点へ走る。
「うぉぉぉぉっ!」
地面に落ちたワイバーンが態勢を戻す前に、その翼へ渾身の一振りを浴びせた。
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