第15話 VSワイバーン

 ワイバーンの翼に向かって剣を振り下ろし……弾かれたっ!?

 くっ……硬い! 十年間鍛えたと言っても、あくまで基礎的な剣技であって、剣のスキルを持っている訳ではない。

 それに、剣も普通に店で売っている鉄の剣だからか、アポクエ中盤のワイバーンに、ダメージらしいダメージが与えられないなんて。

 だが、地面に落ちたワイバーンの目がギロリと俺を睨む。

 ひとまずワイバーンの憎悪を対象を、村人や家ではなく、俺に向ける事は成功したようだ。


「アデル様! 下がってください!」


 声がした方に一瞬目を向けると、シモンたち獣人族二人が槍を手にしている。

 俺が邪魔で攻撃出来ないようなので、一旦距離を取ると、


「せいっ!」


 身体能力が高い獣人二人による、同時攻撃……って、この距離でも槍は投げるのか。

 一本の槍はワイバーンの顔に当たり……弾かれて折れてしまった。

 だがもう一本の槍が、ワイバーンの腹に刺さり、それなりの傷を付け……ワイバーンが暴れて、抜け落ちる。

 明らかに鉄の剣よりも威力が落ちるであろう石の投げ槍の方がダメージを与えているのは、獣人族の腕力が強いからだろう。

 俺にも力があれば……いや、待てよ! 確かさっき……


――GYAAAAAAAA――


 傷を付けられた怒りなのか、ワイバーンが咆哮し、羽ばたこうとしている。

 マズい。このまま空へ逃がすのは絶対に避けなければ!

 さっき思い付いたスキルで、きっと何とかなるはず!


「≪スキル合成≫使用。攻撃力UP:楽器とシール・ソード」


――『攻撃力UP:剣』スキルを入手。剣を装備している時、攻撃力が増加します――


 ワイバーンには、物理攻撃が効かないという訳ではない。

 単に、今の俺の攻撃力が弱いんだ。

 だから、このスキルで……って、逃がすかっ!


「はぁっ!」


 既に羽ばたいているワイバーンの翼に攻撃を当てるのは難しいと考え、先程槍の攻撃で出来た、腹の傷に剣を突き刺す。

 攻撃力UPスキルのおかげか、傷口から攻撃しているからか、深々と剣が奥まで刺さる。

 だけど、生命力が高いからか、そのまま飛ぼうとして……だったら、これならどうだっ!


「≪フリーズ・アロー≫」


 ワイバーンの腹に深く刺さっている剣に向けて、氷の矢を放つ。

 至近距離から氷の矢が当たった衝撃で、剣が更に奥へ押し込まれ、かつワイバーンの身体の中から冷却されているはず。

 流石にこれは効いたようで、羽ばたきが止まり、ワイバーンの巨体が真っすぐ倒れていく。

 その身体が地面に倒れた衝撃で、俺の剣がワイバーンの背中を貫通して出てきた。


「流石に、これは倒した……で、良いよな?」

「……で、ですよね? ピクリとも動かないですし……アデル様、流石です!」

「いや、シモンたちが攻撃してくれたおかげだよ。特に、あの石の槍で傷が付いていたからこそだと思うし」

「いえ、我々ではあの傷を付けるのが精一杯でしたよ。……皆、アデル様がワイバーンを倒したぞっ! もう安全だ!」


 シモンが大きな声で、安全を伝えると、真っ先にクレアとソフィがやってきた。


「あ、アデル様ぁぁぁっ! 御無事で……御無事で本当に良かったですぅぅぅっ!」

「領主様、凄ーい! 村を……お兄ちゃんを守ってくれて、ありがとぉぉぉっ!」


 クレアが俺の近くへ寄って来たと思ったら、ソフィが凄い速さでジャンプし、顔にタックル……ではなく、抱きついてきて、あやうく倒れるところだった。

 とりあえず、獣人族の身体の能力で、無邪気に飛びつかれると危険なんだが。

 俺の顔がソフィのお腹に埋もれていて、注意出来ないけど。


「あっ! い、今のは私が抱きしめるはずだったのに……うぅ、速く走れるようにならないとダメなの?」


 クレアが何か呟いているような気がするのだが、何となく悔しそうにしているのは分かったものの、ハッキリとは聞こえない。

 何かあったのかと思っていると、テレーズの声が聞こえてきて……


「領主様も、おにーちゃんも、無事でよかったー! 領主様、ありがとー!」


 その直後に、頬に何かが触れる。


「あぁぁぁーっ!」


 テレーズの言葉や、戦闘前のシモンの話から、戦ってくれていた獣人族の男性は、テレーズの兄なのだろうが……それより、さっき触れたのは何だったんだ?

 それに、何故かクレアが叫んでいるけど……とりあえず、怪我人が一人も出なくて良かったよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る