第16話 無限増殖

「アデル様。こちらのワイバーンは解体してよいでしょうか」

「解体……って、そんな事も出来るの!?」

「え? はい。ワイバーンは初めてですが、普段から魔物を倒したら、解体して肉や皮を取っておりますので」

「じゃあ、頼むよ」


 そう言うと、シモンが倉庫から小さな石のナイフを取ってきて、テレーズの兄と一緒に解体し始めた。

 リーチを一切考慮しない、完全に解体専用のナイフでワイバーンの肉を切っていき、巨大な翼に取り掛かろうというところで待ったをかける。


「すまない。ワイバーンの翼については、根元から切り離し、傷つかないようにしてもらえないだおうか」

「わかりました。何をされるのかは我々にはわかりませんが、先に切り離しますね」


 シモンがワイバーンの翼の付け根にナイフを当てがい、綺麗に切り落とす。

 左右の翼が綺麗な状態で手に入ったが……どちらも片方だけで三メートルはありそうだ。

 軽くて丈夫なワイバーンの翼は、防具の材料にも使えるし、高級なテントに使われたりするので、結構高値で売れる。

 なので、ソフィたちにも手伝ってもらい、二枚の翼を倉庫へ。


「立派な翼ですね。これなら然るべき所へ持っていけば、良いお値段で買い取っていただけそうですね」

「あぁ。状態も悪くないし、クレアの言う通り、それなりの値段で売れると思う」

「良かったです! ワイバーンが現れたと聞いた時は怖かったですけど、この翼で調味料や他の食材が買えそうですね」


 これで色々な料理が作れる! と、クレアが喜んでいるので、俺も頑張ろうと思い、ワイバーンの翼を剣で貫く。


「えぇっ!? アデル様っ!? 一体何をっ!?」

「まぁ見ててよ。ちょっと考えがあるんだ」


 ハラハラした様子のクレアと、キョトンとしているソフィとテレーズを前に、剣でワイバーンの翼をどんどん切っていく。

 ワイバーンの翼を、二メートル四方くらいに切り出すと、昨日思い付いた事を実践してみる。


「≪キュア・ホール≫」


 大きな穴が開いてしまったワイバーンの翼に、穴を塞ぐ魔法を使ってみると……塞がっていく!

 もちろん、切り出した翼には何の影響もない。

 という訳で、本来の翼全てではないけれど、それなりの大きさのワイバーンの翼を新たに二枚得られた。


「……え? アデル様? こ、これって……」

「うん。昨日、気付いたんだけど、服に開いた穴を塞ぐスキルで、素材を大量に獲得できそうなんだよね。で、何か良い素材を街に買いに行こうと思っていた矢先に、ワイバーンの翼が手に入ったから、早速やってみたんだ」

「えっと……もしかして、物凄い事になりませんか!?」

「まぁね。とはいえ、こればっかり大量に売っていると、値崩れを起こすだろうし、程々で止めて別の素材を探さないといけなくなるけどね」


 とはいえ、この村に足りていない衣類とか、調味料の類や食料品に、魔物対策のための武器とかは購入出来るくらいは売るつもりだけど。

 というか、あの石の槍でよくワイバーンと戦えたな……と本気で思う。

 それだけ獣人族たちの身体能力が凄まじいという事だけど、もっとまともな武器を使えば、より安全に戦えるはずだ。

 今回はなんとかなったけど、強力な魔物が多い死の山の近くにある村だし、備えはあった方が良いだろう。

 そんな事を考えながら、黙々とワイバーンの翼を切り出していると、ソフィが何かを運んできた。


「領主様ー! 前に、お兄ちゃんたちが倒した魔物の皮とか骨とかを残しているんだけどー、これも売れるー?」

「どれどれ……って、もしかしてこれ、グレート・ディアの角と毛皮!?」

「うーん……たぶん。お兄ちゃんが、そんな名前を言ってた気がするー」


 グレート・ディアも中盤くらいで現れる魔物で、ドロップするアイテムの角が薬の材料になるので、凄く高く売れる。

 あと角には劣るけど、毛皮もそれなりの価値があるので……って、物凄い量があるんだけど。


「ど、どうしてこんなに沢山あるの?」

「だって、畑を荒らしに来たのが、この鹿だもん」

「な、なるほど」


 この村は序盤の最後……中盤に差しかかる前に訪れる場所だから、低確率でグレート・ディアが出るのかもしれないな。

 俺はアポクエをしている時に、この村付近で遭遇した事はないけど……というか、本来はこの村ってボスであるアデルが支配しているから、敵の本拠地というか、一度来たらそれ以降来る事はないんだけどさ。

 ……ん? あれ? 何か俺は凄く大切な事を忘れているような……


「領主様ー! これはー? こんなのもあるんだよー」


 何かが引っかかったところで、違う魔物の素材を持ってきたテレーズに抱きつかれ、何故かクレアが不機嫌になってしまったけど、ひとまず売り物を選別して、近くの街へ運ぶ事にした。

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