第17話 街へ
ワイバーンを倒した翌日。
馬車に売り物を乗せ、一番近くの街へ向けて出発する事に。
ただ一番近いと言っても馬車で数日掛かるので、往復すると一週間程村を離れる事になってしまうが。
「シモン。すまないが留守の間、よろしく頼む」
「お任せください。アデル様のおかげで、村人全員が美味しい食事をいただけるのです。武器も直していただきましたし、魔物に負ける理由がありません」
シモンの言う通り、村人全員分のジャガイモやサツマイモに、長芋を一週間分出しておいたし、ワイバーンとの戦いで壊れた石の槍も、全てなおしておいた。
なので、俺やクレアが来る前よりも、村の状態は良くなっているはずだ。
「しかし、本当に護衛をつけなくて宜しいのですか?」
「あぁ。俺たちが居ない間で何かある方が嫌だしな」
村には戦える者が四名しかない。
それなのに、俺の護衛で一人が村から居なくなるというのは、致命的だからな。
「お兄さん。領主様とクレアおねーちゃんは私たちが一緒だから大丈夫だよー!」
「そうですね。私たちが、領主様とクレアさんのお傍に居ますから」
そう言って、馬車の荷台に座っていたテレーズと、その姉のタチアナが顔を出す。
この二人は、街へ着いてからの荷物の運搬係として自ら同行を申し出てくれた。
はっきり言って身体能力だけで言えば、俺よりもテレーズの方が優れているし、その姉であるタチアナならば尚更だろう。
ちなみに、タチアナはクレアと同い歳くらいに見えるのだが、獣人族の成長の早さによるもので、まだ十三歳らしい。
テレーズは九歳らしいので、万が一戦闘になったら、この二人はクレアと共に隠れて貰わないとな。
「では、行ってくる」
「アデル様、お気をつけて!」
「行ってきまーすっ!」
村の住人たちに見送られながら馬車を走らせると、皆が見えなくなるまでテレーズが大きく手を振っていた。
その様子を御者台から微笑ましく眺めつつ、ハルキルク村へ来た時の道を戻って行く。
ここから一日掛けて隣の村へ行き、今日はその村で一泊する予定だ。
「ふんふんふーん」
「テレーズちゃん。凄くご機嫌ね」
「うんっ! だって、初めて馬車に乗ったもん!」
クレアが聞いてくれたおかげで、座り心地が良くないであろう荷台にもかかわらず、テレーズが鼻歌交じりな理由がわかった。
とはいえ、御者台もクッションなどがある訳でもなく、前を向いて背もたれがある……というくらいだが。
「そうだ。それなら、こっちへ来てみる?」
「いいの!? いくいくー!」
「じゃあ、私が後ろに……えっ!?」
俺の隣に座るクレアが場所を交代するつもりだったみたいだけど、テレーズは居ても立っても居られなかったのか、俺の右側……俺を挟んでクレアの反対側にスッと飛び乗ってきた。
「テレーズ。領主様やクレアさんに迷惑を掛けないようにね」
「まぁまぁ。テレーズは細いから大丈夫だよ」
「ほらほら。領主様が良いって言っているから、大丈夫大丈夫ー!」
タチアナがやんわりと注意したが、クレアも細いし、三人で座っても問題ないだろう。
それから暫くテレーズが右を向いたり左を向いたりして、一人で楽しそうにしながら、ずっと俺やクレアに話し掛けていたのだが……突然無言になる。
どうしたのかと思ったら、寄りかかって来て……俺の脚の上にテレーズの頭が落ちてきた。
これは……寝てるな。
「ちょ、ちょっとテレーズ……」
「いや、いいよ。初めての馬車で慣れていないだろうし、長時間座りっぱなしというのも大変だろうからね」
「す、すみません」
タチアナが申し訳なさそうにしているけど、見た目は中学生でも、九歳だと言われれば仕方がない。
特に、最初はテンションが高かったし、もう一時間は馬車を走らせているから、疲れてくるのも当然だろう。
だがテレーズはともかく、
「ふ、ふわぁー。わ、私も眠くなってきちゃいましたぁ。む、むにゃむにゃ……」
何故かクレアまでもたれかかって来て、俺の肩に頭を乗せてきた。
ハルキルク村へ来た時は、クレアは一度もこんな事をしなかったよな?
もしかして、実は疲労が溜まっているのだろうか。
よく考えたら、未だに板の間の上に薄い布団を敷いて眠っているし、疲れが取れていないのかもしれない。
余裕があれば……いや必ず、街で寝具も買おう。
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