第44話 樹海

「じゃあ、俺たちは帰ろうか」

「はい! そうですね」


 ここまで案内すれば、後は道なりに真っすぐ進むだけなので、大丈夫だろうと思い、タチアナと共に山を下りる。

 双子岩から緩やかな下り坂を真っすぐ進むだけで、死の山の入口へ辿り着くので、すぐに山を出られると思ったのだが……大切な事を忘れていた。

 ブレアたちは死の山の入り口の結界を解かずに、バグ技的な手法でここへ来ている。

 その一方で、通常のアポクエでは死の山から出る際に魔族の結界なんてものはない。

 そのため俺は、何の警戒もせずに結界に突っ込んでしまい、慌ててタチアナが俺の手を取ったのだが……二人揃って、見知らぬ場所にいた。

 結界は外から中には入れないように防ぐが、中から外へ行こうとすると変な場所に飛ばされるのか。


「ここは……どこだ?」

「見た事がない場所ですね。深い森の中ですが……何か変です」


 見たところ、何処かの森の中のように思える。

 異世界とかに飛ばされていなければ、アポクエのマップの何処かではあるはずなので、どうにかして帰れるとは思う。

 ただ、特徴的な森ならばともかく、普通の森のように思えるので、どの森なのかが分からない。


「とりあえず、森から出てみよう。建物があれば、道を聞く事も出来るだろう」

「わかりました。ですが……先程も申し上げたのですが、魔物の気配が感じられないんです」

「なるほど。索敵が出来ないのか。ひとまず、慎重に行こう」


 アポクエには、樹海というマップが幾つかある。

 そこには不思議な力が働いており、移動系や探索系の魔法が使えないという制約があるので、樹海マップのどれかだろう。

 もしも死の山に一番近い樹海であれば、一日歩けば帰れそうだが、そうでなければ何処かで馬車に……最悪の場合、船に乗らなければならないな。

 そんな事を考えながら、ひとまず真っすぐ一方向に向かって進んでみる事に。

 魔物が出て来てくれれば、その強さからある程度の位置が分かるのだが……意外に出ないな。

 背の高い木が多く、光が少ししか差しこまないので、薄暗い森の中を進んでいると……何かが動いた!


「タチアナ。何かがいる。警戒しておくように」

「はい……見つけました!」


 って、タチアナが言った傍から突っ込んで行った!

 魔物の強さが分からないから、先ずは様子見だと思ったのに!

 タチアナが何かを蹴り飛ばし……大きな芋虫か?

 幸い、強くはないみたいだけど、見た事がない魔物なんだが。


「初めて見る魔物ですね。何でしょうか」

「……俺も知らない魔物だ。毒を持っていたら困るし、そのまま進もう」


 何だ!? 魔物の強さはアポクエの序盤って感じがするけど、やり込みまくった俺が分からない魔物というのが怖い。

 もしも、異世界に飛ばされていたら、アポクエのゲーム知識は使えないし、クレアやソフィたちのところへ戻れない可能性が高くなり、タチアナもテレーズの元へ帰れなくなってしまう。

 内心物凄く焦るが、幸い食料はジャガイモが出せるし……出せるよな!?


「≪クリエイト・ポテト≫」

「領主様? 突然どうされたのですか?」

「えっ!? あぁ、そろそろ昼食の時間かなって思って。これからかなり歩くかもしれないし、休憩を兼ねて、食事にしようと思うんだ」

「なるほど。では、私は燃やせそうな枝や落ち葉を集めますね」


 そう言って、タチアナが俺から離れ過ぎないように気を付けながら、小枝を集め始める。

 ちなみに、スキルは無事に発動したので、異世界とかではない……と思う。

 何か移動に関するスキルや、位置がわかるスキルを作りたいところだが、こんな事になるとは思っておらず、ノートを置いてきてしまっている。

 だが、ノートを見返すまでもなく、あのスキルとあのスキルを合成すれば、かなり良いスキルが出来るはずだ!

 タチアナの小枝集めの傍らで、俺は合成スキルを使用する事にした。

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