第64話 ついに帰ったブレアたち

――モーヴ 男 三十歳。人間族。染物職人。腰痛。身長:百七十二 体重:七十八 「領主殿は、噂通りお若いのだな」……――


「あ、これで移住手続きは完了です。第二居住地へ向かってください」

「ありがとう。感謝します」


 ディテクト・マインドスキルを使い、村へ入って来る者のチェックを行うのだが、たいていの者は俺に対して興味はあっても、良くも悪くも何の感情もない。

 というか、初対面でソフィの様に好いてくれていたらおかしいし、異様な憎悪などを抱いていてもおかしいので、これでアサシンを見抜けるのではないかと思う。

 そんな日々を暫く過ごしていると、


「領主さーんっ! やりましたよっ! ボクたち、ついに遺跡の地下にあったダンジョンを攻略したんですっ!」


 ブレアが古い盾……実は、勇者専用装備の盾を手に戻ってきた。


「それは、良かったです」

「領主さんが、ボクたちをこの村に泊めてくれたおかげです! ご迷惑をお掛けしてしまったけど、本当にありがとうございましたー!」

「いえ。我々としても、勇者様にご協力出来て光栄です」


 という訳で、これでブレアがこの街を離れ、聖騎士や賢者という強キャラもこの村を去る。

 ランディの言う通りであれば、この後がいよいよ本番で、アサシンたちが俺を狙って村にやって来るのだろう。


「ブレアさん。次はどちらへ行かれるのですか?」

「まだ分かりませんが、一度王城へ戻って王様に報告が済んだら、また何処かへ行くように言われるのかなと思います」

「なるほど。それでは一つアドバイスというか情報なのですが、もしも鉄のゴーレムに遭遇したら、ゴーレムではなく、近くの壁に隠されている魔法の杖を破壊してください。それで、ゴーレムは止まります」

「え? あ、はい」


 ブレアがキョトンとしているが、これはアポクエで勇者専用の剣を守る、ガーディアンの倒し方の一つだ。

 もちろん正攻法で正面から挑んでも良いのだが、今回みたいに順番をすっ飛ばして無茶ぶりさせられる可能性もある。

 だがこの方法を使えば、タンクがガーディアンの攻撃に耐えられれば、それだけで勝てるからな。

 本来後半のボスだけど、中盤くらいの能力と装備で挑んでも勝てるはずなので、是非とも頑張ってもらいたい。

 ブレアはアポクエでアデルを殺すから近くに居て欲しくはないが、別に嫌いではないし、世界を平和にしてもらう為にも死んでもらっては困るからね。


「アデルさん。例の件、これからだと思いますので、どうかお気をつけて」

「いや、ランディが教えてくれて良かったよ。一応、防衛準備は間に合わせたつもりだし」

「まぁ、ダンジョンへ行って帰ってきたら、この要塞みたいな壁で囲まれていたので、かなり驚きましたが……とはいえ、想定外の攻撃を仕掛けてくると思いますので。例えば、毒とか……あの湖に毒を仕込み、村人ごと全滅なんて事も有り得ますので」

「わかった。気を付けるよ」


 最後にランディと話し……ブレア一向を乗せた馬車が村を出て行った。

 これまでは勇者の補給部隊や、装備品の調整を行う鍛冶師に、賢者の要請で来ていた移動本屋など、近くの街から何度も馬車が来ていたが、それも無くなるだろう。

 そういう者たちをターゲットにしていた商人たちも撤退するだろうから、暫くすれば村の人口も減っていき、守り易い規模の大きさに戻るはず。

 あとは、アサシンたちがいつ来るかだ。

 ……と、そんな事を考えていたのだが、


――コーロス 男 十六歳。人間族。双剣士。健康。身長:百七十九 体重:五十八 「こいつがターゲットか」……――


 すぐにやって来たよ。

 ブレアたちが街を出て、たったの一時間しか経っていないのに、で刺客と思わしき男性がやって来た!


「……こほん。シモン、例の件なんだが……」

「あぁ、なるほど。例の件ですね。では最後の移住手続きがありますので、次はこちらへお願い致します」

「わかった」


 予め決めていた通り、シモンに合図を送ると、別の小部屋……に見せかけた、牢の中へ。


「は? おい! これはどういうつもりだ!」

「それはこっちのセリフだ。アサシン・ギルドから来たんだろ? 生きて帰れると思うなよ?」


 さて、取り調べを始めるか。

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