第61話 元アサシンのランディ

「あ、アデルさん! 少しだけ……少しだけこちらへ!」


 以前に父親の刺客として俺を殺そうとしたランディが、大慌てで俺の傍へやって来ると、俺を連れてキースさんから少し距離を取る。

 流石に、この状況で俺を殺そうとすればどうなるか分かっていると思うし、あの頃と比べて俺もそれなりに強くなっているので、話くらいは聞いてやろう。

 怪しい動きをしたら、即斬るが。


「あの節は誠に申し訳ありませんでした」

「……それは、暗殺者をしていた事を黙っていて欲しいという事か?」

「そう……ではあるのですが、厳密に言うとそうではないのです」


 どういう事かと話を聞くと、父に依頼されて俺を殺しに来たランディは、暗殺に失敗し、かつターゲットではないクレアに猛毒を喰らわせてしまった。

 ひとまず父親に結果を報告すると、口封じにランディが殺されそうになったらしい。

 橋の上で斬られ、冷たい河に落ちて流され……奇跡的に瀕死の状態で生きながらえたのだとか。


「それで、アサシンだった私はもう亡くなった事にして、今はトレジャーハンター兼シーフのランディとしてやり直そうとしているんです」

「つまり偽名で人生をやり直して、上手くいっていいるから、見逃してくれと?」

「いえ、アサシンの時が偽名……というかコードネームで、このランディが本名です。それと、人生が上手くいっているというより、当時の事がバレれば再び命を狙われる日々に怯える事になるので、どうか助けていただけないかと」

「俺とクレアを殺そうとしたくせに?」

「本当に申し訳ありませんでした。言い訳にしかならないのは重々承知ですが、今は罪滅ぼしの為に孤児院でも働いているんです。どうかお許しを……」


 はぁ……いや、そうまで言われては、何だから俺の方が悪いみたいになってしまう。

 もちろん、決してそんな事はないのだが……俺も甘いな。


「わかった……だが、今回の件が済んだら、二度とこの村には近寄るなよ」

「しょ、承知致しました! あと、お詫び……という訳ではありませんが、一つ情報があります」

「何だよ。伝説の武器とか、ドラゴンの財宝とかの話なら要らないからな?」


 その手の情報は、アポクエをやりまくっているから、たいていの事は知っている。

 だけど、勇者専用の武器だったり、最強の武器だけど別大陸に渡らないと入手出来なかったりと、あえて入手しようと思わないものばかりだ。

 まだ比較的この近くで入手出来るものといえば、今ブレアたちが挑んでいる遺跡ダンジョンにある勇者装備の盾とか、死の山の山頂近くにあるブルードラゴンの巣に眠る氷の剣だけど、必要に迫られていないからな。

 さて、どんな情報を教えてくれるのかと思っていると、


「アデルさん。この村の発展について、既に王都まで話が広がっています。そして、このハルキルク村の領主を殺せという依頼が、アサシンギルドに来ていると、かつての仲間から聞いています」

「な……何だって!?

「以前の私は、ここへ向かうアデルさんを殺すように依頼されただけで、その背景までは分かっておりませんでしたが、おそらく依頼主はお父上でしょう」


 とんでもない話が出てきた。


「今は勇者や聖騎士が居るのでアサシンたちも動かないでしょうが、無事にダンジョンを攻略し、勇者パーティがこの村を去った後……おそらくアサシンたちがこの村を襲ってくるかと」

「まさか……あのクソ親父め!」

「アデルさんは、私の過去を黙っていただけるという事でしたので、私も出来る限りダンジョン攻略を伸ばしてみます。ですから、その間に逃げるなり防衛力を高めるなり、対策をされた方が良いかと」

「わかった。ありがとう」


 一通り話を終えてキースさんのところへ戻ると、俺が言った「ランディに殺されかけた」というのは、昔ランディが御者をしていた馬車に轢かれかけた……という話にしておいた。

 少々強引ではあるものの、キースさんが空気を読んだのか、それ以上は突っ込まずにランディがブレアたちの許へ。

 この村は、死の山に一番近い場所ではあるものの、アポクエで死の山へ行くまでには、かなりの時間が空く。

 ランディの言う通り、遺跡ダンジョンを踏破すれば、暫くブレアたちがここへ来る事はないだろう。

 何とかして……とにかく大急ぎで対策を取らなくては!

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