第62話 アサシン対策

「……という訳で、ブレアたちが遺跡のダンジョンで目的を達したら、この村にアサシンがやってくるんだ」

「えぇっ!? えっと、アサシンって、初めてこの村へ来る時に襲われた、あの人たち……ですか!?」


 先程ランディから聞いた話を、先ずはクレアとシモンに話した。

 流石にアサシンの雇い主が実の父親だという事は避け、この村を大きくした事に対する羨ましさが動機ではないか……と濁しておいた。

 実際のところは、無能扱いして家から追放した俺が普通に生きており、かつ領主として成功しているのが許せないのだろう。

 それはすなわち、父親の見る目の無さの照明になるから。


「ひとまず、俺はこの村を離れようと思う。アサシンたちは俺の命を狙っている訳だから、俺が居なければ、この村は巻き込まれないだろう」

「お待ちください。アデル様はどのようにして、この村から出ていかれるおつもりなのですか?」

「え? 囮の役目を果たすように、あえて大きな街で乗合馬車とかに乗って、目立ちながら何処かへ行こうかと」


 シモンからの質問に答えると、小さく首を横に振られる。


「アデル様。その方法ですと、確かにこの村へアサシンはやって来ない可能性があります。ですが、アデル様がアサシンたちを返り討ちにし、第二の刺客が放たれた時……真っ先にこの村へ来るでしょう」

「あ……確かに」


 シモンに指摘されるまで気付かなかったが、アサシンたちを倒したところで、第二、第三の刺客が来るか。

 そいつらが、俺が囮として逃げている場所へ来てくれれば良いが、もしも情報収集能力が無く、戦闘能力に特化した奴だったら、とりあえずハルキルク村へ行くかもしれない。

 そこで俺がいないから別の場所を探す……となってくれれば良いが、村人たちを人質に取ったり、俺が居ない腹いせに村を壊すような奴だったら最悪だ。


「おわかりいただけましたか? ですので、アデル様……というより、我々を含めて取る手段は、アサシンの雇い主を潰すという一択かと」


 シモンの言い分も分かる。

 何度倒しても追手が来るのであれば、その大元を叩かねばならない。

 だが、ゲームの世界といえども、俺の……アデルの実の父親なんだよな。

 俺としては、奴に父親という感情はないので、その気になれば実家を潰す事に抵抗はないのだが……アポクエ的に宜しくない理由がある。

 というのもアデルの父親、メイナード・スタンリーは、アポクエの勇者専用の鎧を入手する際に死亡するイベントキャラだ。

 そのイベント前に死んでいると、あの展開を無視したイベント進行みたいな事が起こってしまうかもしれない。

 ブレアは俺の近くに居て欲しくはないが、アポクエのストーリーは進めて、ラスボスを倒してもらわないと、世界が平和にならないのでそれはそれで困るんだよ。


「すまない。詳しくは言えないのだが、俺に刺客を放っている者は概ね見当がついいて……手が出せない相手なんだ」

「左様ですか」

「あぁ。だから、俺が囮になって逃げるという手が取れず、依頼主を倒す事も出来ないとなると……取れる手は二つかな」

「……一つは、予想出来ます。皆でこの村を捨てて別の場所へ移るという事ですよね?」

「すまないが、その通りだ。だが、大勢の村人を連れて別の場所へ移住するというのは、場所を探すだけでも大変だし、なかなか骨が折れると思う」


 このハルキルク村は、領主が半ば放置していたが、普通はこんな平地で、近くに水場もある場所へ勝手に村を作るというのは難しいだろう。

 近くに死の山があり、王都から遠く離れているからこそ出来た訳で、他に似たような条件の地形となると……いや、あるにはあるんだけど、別の大陸だったりして遠すぎる。


「となると、取れる手は一つかな」

「アデル様。それは、どのような手段なのでしょうか」

「うん。実現は結構大変だけど……この村を要塞みたいに強固な防衛が出来るようにしよう。要は、いくら依頼を出しても手が出せず、アサシンギルドが依頼を請けなくなるように諦めさせるんだ」


 これはこれで大変だけど、村人全員を連れて別大陸へ移住する事に比べれば、まだマシな気がする。

 ……気がするだけで、何にもアイディアはないけどね。

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