第41話 VS魔物

 村を出て、体感三十分ほど歩いて、死の山の近くまでやってきた。

 ここまでは街道もあったので、魔物が現れる事無くただ歩くだけだ。


「では、ここからは、この獣道……というか、ボクたちが踏み均した道を進みます。魔物が出てくる可能性もあるので、気を付けてください」


 そう言って、ブレアとヴィンスが周囲を警戒しながら歩いて行く。

 ちなみに、二人に続いて僧侶の少女と、魔法使いの青年と続き、俺とタチアナが最後尾となっている。

 本当に俺とタチアナを守るのであれは、隊列や陣形は変えるべきだが、ブレアが戦い慣れていないのか、それとも魔法職の方が大事だと思っているのか……出来れば、後者であって欲しいけど。


「領主様。この靴、ありがとうございます。物凄く歩き易いです」

「気に入ってもらえて良かったよ。ただ、履き慣れない靴は足を痛める事もあるから、違和感があったらすぐに教えて」

「わかりまし……領主様! 魔物です! 左側前方から近寄ってきます!」


 タチアナと話していると、頭から生えている大きな猫耳がピンと立ち、周囲を伺うように動いている。


「ブレア、ヴィンス! 魔物だ! 左前方! 種別は不明!」

「えっ!? 何処に……」


 周囲が背の高い草に囲まれているからか、ブレアもヴィンスも混乱している。

 ひとまず、魔法職の二人を守る為に前へ出たところで、俺も気配を察知した。

 この移動速度と、死の山の手前で出現する事から考えると……


「おそらく魔物はホーン・ラビットだ! 盾があるものはしっかり構えろ! 突っ込んでくるぞ!」


 左側の草を薙ぎ払い、少し視界を確保したが、俺ではなくヴィンスの所へ魔物が現れたらしく、小さなうめき声が聞こえてくる。

 急いで駆けつけ、大型の犬くらいのサイズのホーン・ラビットが再び突撃しようとしているところに斬りつけ、首を落とした。


「大丈夫か?」

「あぁ。事前に教えてもらえたからな。しかし、よく分かったな」

「それなら、タチアナのおかげですね。いち早く魔物の接近を察知したので。可愛いし、強いし、索敵も出来て……タチアナは凄いな」


 タチアナを褒めると、恥ずかしそうに照れながら、俺の背中に顔を埋める。


「りょ、領主様。大した事でもないのに褒め過ぎです」

「いや、ただ事実を言っただけなんだが」

「ふぇぇ……く、クレアさんやソフィちゃんが言っていた事が、よくわかります」


 え? クレアやソフィが何かグチをこぼしていたのか!?

 一番長く接している二人なので、自身の良くない個所を正すためにも内容を教えて欲しいんだけど。

 だけど、ヴィンスがホーン・ラビットのツノを素材として取り終えたので、再出発する事に。

 街道を外れて魔物が現れる事も多いので、流石に今聞く事も出来ず、周囲を警戒しながら歩いていき……三回ほど魔物を撃退して、目的地へ到着した。


「す、凄いです。ここまで治癒魔法を一度も使わずに辿り着くなんて」

「それどころか、防御魔法も使っていなくて、魔力が有り余っています」


 ブレアと僧侶の少女が嬉しそうに話しているが、タチアナが遠くにいる魔物を発見してくれるからね。

 それと、ヴィンスが挑発スキルを持っていると聞き、魔物の最初の攻撃が全て集中するので、対策が取りやすかったというのもある。

 ヴィンスのところに来ると分かっているから、現れたところを斬るだけで良いしね。


「アデルさん、ありがとうございます。おかげさまで無傷のまま来る事が出来ました」

「それは俺ではなくて、タチアナとヴィンスさんのおかけですよ」

「いえ、いくら来るのが分かっていても、ヴィンスに攻撃が届く前に斬るなんて出来ないですって」


 ブレアが誉めてくるけど……いや、魔物がいると分かったら、周囲の草を刈って視界を確保し、構えているだけなんだが。

 ただ、運が良かったというのはある。

 二体同時に魔物が現れた時は俺とタチアナで倒せたけど、もしも三体以上同時に現れていたら……とは思う。

 とはいえ、ブレアたちが使っているという獣道へ到着したので、ここからは俺が先頭となり、双子岩へ向かう事にした。

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