第42話 死の山の登山

「……毎回この道を登っているのか?」

「はい。かなり急ではありますが、まだ登れそうな道だったので」

「……そうか」


 ブレアの案内で、獣道……というか、両手両足を使い、岩や木に手を掛けながら死の山を登っていく。

 ロッククライミング……は言い過ぎだが、よくこんなところを登ろうと思ったな。

 とりあえず先頭を進んで行くが、当然アポクエでこんな場所は知らない。

 ただブレア曰く、このまま登っていくと、平坦な場所に出るそうなので、そこまで登って場所を確認したい。


「タチアナ、大丈夫か?」

「はい。領主様にいただいた靴のおかげです。そうでなければ、この道はかなり足を痛めていたかと思います」


 いや、俺としては雑草による切り傷や、木の根などを踏んで足を怪我しないようにして欲しかったのだが……まぁタチアナの足を守っている事に変わりはないので、まぁいいか。

 とはいえ、かなりキツいな。


「領主様。私が先行して、魔物がいないか確認します」

「え? しかし……」

「お任せください」


 タチアナが獣人族の身体能力を活かして、サクサク登っていく。

 いや、速いな。

 登り方の参考にさせてもらう為に、下から動きを見ようと顔を上げ……って、スカートが短いっ!

 いろいろ見えてるっ!

 俺の次に登っているのは……僧侶の少女か。

 ここまでも見えていたと思われるが、まぁ女性になら見られても良いかもしれないが……俺は極力上を見ないようにして登らなければ。

 上を見ないように登っていると、タチアナの声が聞こえてきた。


「領主様、到着しました。お手を」

「ありがとう。タチア……」

「領主様? どうされたのですか?」

「……い、いや、何でもないんだ。ありがとう」


 垂直に近い急勾配でタチアナが手を差し伸べてくれていたので、その手を取ると力強く引き上げてくれたのだが……その、タチアナが前かがみというか、四つん這いの体勢になっていたので、胸元から柔らかそうな膨らみが見えてしまっていた訳で。

 ……帰りは、絶対にアポクエの本来の道で帰ろう。

 それから、暫く待っていると、ブレアたちも全員登り終える。


「ふぅ。いつもは、ここで少し休憩するんですが……よろしいですか?」

「もちろん。ただ、その間に少し周囲を見てくるよ」

「領主様。私もお供致します」


 息すら乱れていないタチアナと共に、周辺を少し歩いてみる。

 何となく見覚えがある場所なので、もう少し歩いたら場所を把握出来そうだ。

 そんな事を考えつつ、周囲を見渡しながら歩いていると、茂みが激しく揺れる。

 このエンカウントの仕方は……グレート・マンティス! 要は、人間大のカマキリだ!

 案の定、茂みから大きなカマキリが姿を現したが、


「えいっ!」


 次の瞬間にはタチアナに蹴り飛ばされていた。

 あ、タチアナは耳が良いから、俺よりかなり前から魔物が居るのが分かっていたのか。

 タチアナの蹴りで開けた場所に弾き飛ばされたカマキリの右の鎌を斬り落とすと、続いて左の鎌も斬り飛ばす。

 弱点である火の属性を付与してるからか、簡単に斬り落とせるな。


「とぉーっ!」


 武器を失い、後ずさろうとするカマキリの頭部に、タチアナが跳び蹴りを放ち……うん。まぁその、完勝した。

 アポクエでは倒したら、魔物を倒したらドロップアイテムを得るだけだけど、人間大の昆虫の魔物の死骸はなかなかキツいものがあるな。

 道中はブレアたちがサクサク解体していたけど……見なかった事にして戻ろう。

 とはいえ、放置も良くなさそうなので、周囲の樹に燃え移らないように気を付けながら、炎の矢で燃やし、水の弾で消火しておいた。


「……一旦、皆の所へ戻ろうか」

「そうですね。向こうも魔物が出現しているかもしれませんし」

「そうだな。少し急ごう」


 もう少しで現在地を把握できる……と、ブレアたちから離れ過ぎたかもしれない。

 早歩きで戻っていると、タチアナの耳がピンと立つ。


「領主様。残念ながら悪い予感が的中してしまいました。複数の魔物と戦っているようです」

「タチアナ、走ろう!」


 慌てて駆け出すけど、俺より確実に足が速いと思われるタチアナが先行しない。

 これは、タチアナとしてはあくまで俺の護衛だからだという事らしいが……ブレアが村に居続けるのも困るが、死んでしまったら、この世界を魔王が支配してしまうので、それはそれで困るんだよ。

 という訳で全力で走り、ブレアたちの所へ戻ってきた。

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