第52話 到着
「おにーちゃーん! 大きな馬車が来たよー? ……皆、何してるのー? テレーズも遊ぶー!」
「テレーズ。教えてくれて本当にありがとう。外で一緒に遊ぼうか」
「うんっ!」
あ、危ないところだった。
土の壁で囲い、簡易にヴィンスたちを閉じ込めている小屋にテレーズが来てくれたおかげで、オリヴィアとクレアが正気に戻ってくれた。
もしかして、オリヴィアもサキュバスの魅了に少しやられているのか?
いやでも、女性だしな。この数日間も普通だったし、忘れる事にしよう。
外に出て、テレーズと地面に絵を描いていると、大きな馬車……キースさんたちがやって来た。
「アデルさん。待たせたな」
「いえ、急な依頼ですみません」
「はっはっは。早速あのマジックアイテムが役に立って何よりだ」
ヴィンスたちを捕らえたあの日、キースさんたちから買ったFAXというか、互いに書かれた文字を同期させる板に、緊急事態として、色々と注文させてもらった。
これで、色々と問題が解決すると良いのだが。
「まずは、家の建築に必要な材料一式だ」
「ありがとうございます」
「一応、オプションもあるけど、どうする?」
「オプション……というと?」
「あぁ、素人に毛が生えた程度で申し訳ないんだが、妹に大工の見習い経験があるんだよ」
キースさんの視線に釣られて目をやると、コートニーさんが大きな胸を逸らす。
何でもコートニーさんは、冒険者を辞めた後、自分に何が合うのかと、いろいろな職業を経験したらしい。
「任せてください! といっても、家造りに何をしないといけないか……というのを知っているのと、一度通しで家を建てたというだけですが」
「いや、それでも十二分にありがたいよ。そのオプションは是非お願いしたい」
「では、オプション料金の代わりに、妹を村に住まわせてもらえないだろうか。器用で何でもこなすし、許可してくれればこの村に店を開きたいんだ」
キースさんによると、コートニーさんをこの村に常駐させくれれば、定期的に商品を補充したり、仕入れたりして、ここに店を作ってくれるらしい。
俺としても在庫管理をしなくて良くなるし、今までは住人全員に同じような物を配っていたが、住人たちが各自で必要な物を選んで買う事が出来るようになる。
「シモン。俺はこの話は良いと思うんだが、どうだろうか」
「俺も良いと思います。貨幣の勉強会はしないといけないかもしれませんが」
シモンやタチアナなど、ある程度の年齢の者は他の村へ買い出しに行った事もあるらしいが、ソフィやテレーズたちは、買い物自体した事がないそうだ。
これは、今まで村で採れたものや、魔物の素材は纏めて売って、買った商品をみんなに配分していたから、仕方がないかもしれないが。
「俺やコートニーとしても、新たな商売の場となるし、ありがたいんだが、どうだろうか」
「いえ、こちらこそよろしくお願いします」
「じゃあ、まずは取引成立だな。コートニーの家をというか、店と倉庫を作る分の建築資材も運んできているから、後で場所を指定して欲しい」
「わかりました」
「それから、次はこっちだな」
キースさんが馬車へ戻ると、誰かを連れて来た?
「……あっ! ユスティーナさん!」
「ふふっ、お久しぶり」
「すみません。まさか直接来ていただけるなんて」
「話を聞くと、かなり高位の魅了を受けたみたいだし、対象の方を直接見た方が良いと思ってね」
以前、俺たちを泊めてくれた、エルフで薬師のユスティーナさんが来てくれたので、早速ヴィンスたちを見てもらう。
「うーん。こっちの魔法使い君はかなり強い魅了に掛かっているみたいだけど、あっちの戦士君はそんなにじゃないかしら?」
「あー……どうやらあのヴィンスは太ももが好きみたいでして」
「ん? じゃあ、こうしたら……うわぁ」
ズボン姿のユスティーナさんが少しズボンを下ろすと……離れた場所にいるにも関わらず、ヴィンスの様子が一変し、ユスティーナさんがドン引きする。
ただ、その……目の前にいた俺には、至近距離で色々見えてしまったので、何をするか先に言って欲しかったが。
「先ずは暴れなさそうな魔法使い君から処置しましょうか」
「よろしくお願いします」
何かあった際にユスティーナさんを守れるようにと、俺とシモンが立ち合い、まずはベンの治療が始まった。
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