第53話 ユスティーナさんの手腕
「では先ず、暴れないように眠らせますね」
「えっ!?」
「次は、魅了の詳細を詳しく調べる為に、診断スキルを使います」
ユスティーナさんがベンを眠らせると言って、驚いている間に、睡眠薬を飲ませてスキルを使って……あっという間に処置が進んでいく。
猿ぐつわを少しずらしてからの、口へ薬を注いで、押さえて吐かせないようにする一連の流れは、手慣れているというか、プロの技というか……いや、間違いなくプロの薬師さんなんだけどさ。
「す、凄いですね」
「ん? いえ、この土魔法で固定されているから、物凄く簡単だったわよ。今回の魅了だけでなく、混乱とか狂化とかの精神系の状態異常は素直に薬を飲んでくれないから」
「な、なるほど」
「まぁ本当は眠らせる魔法やスキルが使えれば一番早いんだけど、あれは闇の精霊の力なんですよ。私たちエルフは、風や水の精霊とは仲が良いんだけどね」
確かに相手を眠らせるスキルがあれば、物凄く楽だ。
今後の為にも作っておいた方が良いのだろうか。
実際、村の生活の為に必要なスキルを作る事が多く、攻撃系スキルって結構少ないんだよね。
ただ、闇の精霊の力というのが気になるけど。
……と、そんな事を考えている内に、カバンから色んな草や液体を取り出し、あっという間にすり潰して混ぜ、薬っぽい物が出来上がっていた。
「はい、出来上がり。飲ませますね。目覚めの効能も含めていますから、すぐに起きると思いますよ」
ユスティーナがそう言った時には、もう小瓶の中身を全て飲ませ終えていた。
いや、本当に早い。
それに診察も出来る訳だし、日本でいう薬剤師というよりも、お医者さんなのだろうか。
その手の仕事に就いている訳ではなかったので、細かい所は知らないけどさ。
「ん……」
「目が覚めたみたいねー。気分はどうかしら?」
「えっ!? エルフの美人お姉さんっ!? き、綺麗です」
「うーん。魅了は解けているはずなのに、こんな反応をするのはどうしてかしら」
目覚めたベンのリアクションを見て、ユスティーナさんが小首を傾げている。
でもそれは、単にベンのタイプで綺麗な女性が、至近距離まで顔を近付けて見つめているからだと思うんだけど。
「あ、でも診察スキルを使うと魅了は解除されているから、大丈夫だと思うわ」
「ありがとうございます。では、拘束を解くけど……ユスティーナさんに変な事をしないように」
「え? あ、はい。けど、そもそもここは何処なんですか? どうして僕は動けなくされて、綺麗なエルフのお姉さんに見つめられているんでしょう?」
あ、魅了されていた時の記憶がないパターンか。
ヴィンスの治療が終わったら纏めて説明すると言い、まずはスキルで土を動かして、ベンの拘束を解く。
何かあればすぐに動けるように警戒しているが、ユスティーナさんをチラチラ見ているだけで特に何かをしようとしている訳ではなさそうなので、一旦良しとしよう。
「じゃあ、次はこっちの戦士君ですね。さっきと同じく、先ずは眠らせますね」
「わぁ……もしかして僕も、エルフのお姉さんに口を塞がれていたんですか? ……想像するとドキドキしますね」
……ベンは魅了の効果が残っていないよな?
というか、外で待たせておいた方が良いのかもしれない。
だが、ユスティーナさんの処置が早過ぎて、どんどん進んでいく。
「うーん。こっちの戦士君は、魔法使い君と違って魔力への抵抗値が低いみたいですね」
「と言いますと?」
「サキュバス魅了効果が身体の奥深くまで浸透してしまっているというか、一度抜いてあげないとダメかも」
そう言って、ユスティーナさんがカバンから大きな瓶を取り出し、瓶に入った液体で綺麗に手を洗い始める。
「お、お姉さん……えっ!? も、もしかして僕もそんな事をしていただいていたんですかっ!?」
「貴方は魔法抵抗値があったからか、そこまでの処置は必要なかったのよ」
「えぇ……そんなぁ」
ベンが残念そうにしている間に準備を終えたのか、ユスティーナさんが改めてヴィンスに近付く。
「あ。見ていて楽しいものでもない……というか、男性は見たくないでしょうし、お二人は外で待っていただいても大丈夫ですよ」
「いえ! 是非お姉さんを見させてください!」
「……念の為、俺も残るようにします」
ヴィンスは眠っているから問題なしとして、ベンが暴走すると怖いので、俺も残る事にした。
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