第21話 お買い物

「アデル様! アレです! 次はアレを食べましょう!」

「領主様ー! これ、欲しいなー!」

「領主様。見てください! パレードです! あの辺りなら、よく見えそうですよ!」


 クレア、テレーズ、タチアナの三人と共に村の祭りを見て回り……三者三様に楽しんでくれているみたいで何よりだ。

 ……うん。ユスティーナさんに魔物の骨や角を買い取ってもらっていて良かった。

 クレアはハルキルク村の食材が芋系しかないからか、様々な物を食べ、それに近しい食材を買っている。

 まぁ現状、毎日三食芋料理だからね。調理方法を変えるにしても、とっくにクレアは芋料理に飽きていたのだろう。

 そんな様子を少しも表に出さない辺り、凄いと思うけど、ストレスが心配になるな。


「わぁ! 領主様ー! ありがとー!」

「だけど、テレーズだけに買うと不公平だから、村の皆にも似たものを買って帰ろうか」

「うんっ!」


 テレーズがおねだりしてきたのは、可愛らしい女の子の人形だ。

 もちろん、日本の玩具みたいに精巧ではないけれど、ハルキルク村にはおもちゃらしき物は何一つ無さそうなので、十分だと思う。

 テレーズに買った人形と、似ているけれど、ちょっとずつ違う人形を十個買っておいた。

 とはいえ、人によって好みは当然違うと思うので、もう少しバリエーションを……という事で、木彫りの馬があったので、それも十個購入する。


「領主様! このパレードは、それぞれ精霊に扮しているみたいですね。可愛いです」


 タチアナと一緒にパレードを見て、日本でいうコスプレ……かな?

 ノームとかシルフとか、この世界で信仰されている精霊の恰好をした子供たちの行進を眺め……うん。俺の目的の夕食の準備が進んでいなかったりする。

 一応、クレアが食材を買っている時に、気になったものは俺も買っておいたけど、一番重要な食材をまだ見つけられていない。


「……って、よく考えたら、祭で出ている屋台じゃなくて、普段から村にある食料品店に行けば良いのか」


 つい、通りに並ぶ屋台にばかり目を向けてしまっていたけど、大きな村だし、食料品を扱う店があるはずで……うん、あった。

 思い描いている食材が全て手に入った訳ではないけれど、メインの食材は買えたので、一旦ユスティーナのお店へ戻る。

 早速キッチンを借りようと思ったら、先にユスティーナさんから声が掛かった。


「只今戻りました。キッチンをお借りしても良いでしょうか?」

「お帰りなさい。もちろん構わないのだけど、その前に……紹介するわ。さっき話した、信用出来る商人のキースよ」


 ユスティーナさんの言葉で、店舗に居た中年男性が近付いてきて、握手を求めてくる。


「やぁ。キースだ」

「はじめまして。アデルです」

「早速で悪いんだが、ワイバーンやグレート・ディアの素材があるそうじゃないか。見せてくれないか? 適正価格で買い取らせてもらうよ」


 うーん。ユスティーナさんの紹介ではあるけど、この人は本当に大丈夫なのか?

 無意識にユスティーナさんへ訝しげな目を向けてしまっていたのだろう。

 ユスティーナさんが苦笑を浮かべる。


「ふふっ、ワイバーンの翼は珍しいから、ちょっと前のめりになっているけど誠実さと目利きは保証するわ。ちゃんと商人ギルドの規定に則った商売をする人だから」

「あ……いきなり失礼だったな。すまない。ワイバーンの翼は需要があるのに品薄でね。これでも、商人ギルドでB級に位置する商人だ。不正な取引をしない事を誓うし、納得いかなければ一緒にギルドへ行って査定を受けても構わないぜ」


 聞けば、商人のランクはA級からE級まであるそうで、適正な会計と利益の実績が相当なければB級にはなれないらしい。


「こちらこそ、失礼しました。では、ワイバーンを始めとした、ハルキルク村の住人たちが仕留めた魔物の素材を見てください」


 キースを馬車へ案内し、荷台の荷物を見てもらうと、


「なるほど。コイツは凄いな。特にワイバーンの翼……かなりの大物だし、質も良い。ほぼ無傷のワイバーンの翼なんて、初めてみたぞ」


 様々な魔物の素材を見て、感嘆の声を上げる。

 ワイバーンの翼は、大きく切り取る前に、小さな傷を治して……塞いでいるからね。

 さて、どれくらいの査定になるかだな。

 ユスティーナさんに買い取ってもらった素材で、食料と子供向けの玩具を買ったけど、あと寝具や家具に、武器に衣服や教育関連……とにかく足りない物が多すぎるからね。

 人形で一緒に遊んで欲しいというテレーズの相手をしながら、キースの答えを待つ事にした。

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