第48話 村の一大事

 走りながらまだまだ遠い村の様子を伺い、煙が上がっている事に気付いた。

 何かが燃えている……まさか、家が燃えているのかっ!?

 だが、立ち昇る煙がやっと見えるという程に距離が離れている。

 ここから水の弾や氷の矢は届かないし、届いたとしても火を消す前に誰かを傷付けてしまう。

 何とかしないと……なら、これでどうだっ!


「≪スキル合成≫使用。ブリーズと雨の気配(弱)」


――『風雨』スキルを入手。風雨を起こします――


 そよ風を起こす魔法と、雨が降るの察知するスキルを合成した結果、そのまんま風と雨を呼び出すスキルが出来た。


「≪風雨≫」


 辺り一面に雨が降り、緩やかな風が雨雲を村へと運んでいく。

 走り続けながら村を見つめていると、立ち昇っていた煙が消えた!

 よし! 後は、どうして家が燃えたのかだな。

 タチアナに遅れる事、暫し。

 ようやく村へと戻って来ると、


「はぁっ!」

「おらぁっ!」

「くっ! もう武器が……」


 ブレアの……勇者パーティの一人、戦士のヴィンスがタチアナやシモン相手に剣を振るっている!?


「やめろっ! ≪フリーズ・アロー≫」

「ふんっ!」


 氷の矢を斬った!?

 確かに火の魔法を付与したので、理論上は可能だが、魔法で生み出された氷の矢を斬り落とすなんて……いや、昨日一緒に行動したけど、絶対にそんな腕はなかったぞ!?


「アデル様っ!」

「クレア、状況は?」

「少し前に二名の男性だけが村へ戻ってきたかと思うと、突然火の魔法放ってきました」

「ブレアたちは居なくて、この二人だけなのか?」

「はい! 一名は火の魔法しか使えないらしく、この雨で無力化されました。ですが、あの男性が暴れて怪我人が一名出ております。ただ、命に別状はありません」

「……村人に手を出したのか。事情は知らないが、許さんっ! ≪ウインド・アロー≫」


 氷の矢と違い、見えない風の矢を放ち、一気に距離を詰める。

 風の矢でダメージを負わせたら、武器を狙った一撃を放とうと思ったのだが、


「舐めるなっ!」


 ヴィンスが風の矢を斬っただと!?

 どうして見えるんだっ!?

 ……雨か。風の矢が雨を切り裂くようにして飛ぶから、それで矢が見えたんだ!

 だが、かなり近付いた。

 あとは、今の風の矢を斬った隙を突いて……と、剣を振り上げたところで嫌な予感がしたので、バックステップで後ろへ跳ぶと、


「≪フレイム・アロー≫」


 戦士であるはずのヴィンスが火魔法を放ってきた!

 どうしてだよっ! アポクエでは、普通の戦士は魔法を使えない!

 それなのに、どうしてヴィンスが火魔法を使えるんだっ!?

 だが、雨の中なので火の矢は俺に届く前に消滅する。

 上手く使いこなせている訳では……


「せいっ!」

「ちっ!」


 火の矢に追随して、ヴィンスが詰めてきている!

 さっき俺がやった事を、そのままやられてしまった!

 更にヴィンスの剣が俺に振り下ろされ……


「やめてぇっ!」


 誰かの叫び声と共に、何かが飛んできてヴィンスが下がる。

 今のは……クレア! 前に馬車で戦いになった時と同じ様に、何かを投げたのか……って、鍋!?


「それですっ! アデル様に加勢するぞっ!」

「領主様から離れてーっ!」

「おにーちゃんをいじめるなーっ!」


 クレアの投擲攻撃を真似、シモンが壊れた槍を投げ、ソフィとテレーズが石を投げる。

 獣人族の力での投石攻撃はかなり効いたようで、ヴィンスがよろけると、そのチャンスを逃さずヴィンスの剣を弾き飛ばす。


「はぁぁぁっ!」


 更にタチアナが走り寄ってきて、回し蹴りがヴィンスの身体を吹き飛ばした。

 地面に倒れたヴィンスの身体を、土を固めて動けないようにしたところで、


「……こ、ここに居たんだ! み、皆さん! 申し訳ありませんでしたっ!」


 戦いで全く気付かなかったが、ブレアと僧侶の女性が村へ入って来ており、深々と頭を下げる。

 ……とりあえず、何が起こったのかを説明してもらおうか。

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