第47話 タチアナとの一夜

 何か……何かスキルでタチアナを温めないと!

 熱いタチアナの身体を抱きしめながら、何か火を遣わずに温めるスキルが作れないかと考えていると、


「領主様。大丈夫です。何も考えずに、このまま身を委ねてください」

「タチアナ!?」

「すぐですから……」


 タチアナが俺に覆いかぶさってきて……って、逆に抱きしめられているというか、押し倒されている!?

 タチアナに被せる為に俺も服を脱いだせいで、タチアナの肌が直接触れて……これはダメなやつだ!

 けど獣人族のタチアナの力が強く、身動きが取れなくて……


「すぅ……」


 え? 寝た?

 あ……すぐって言うのは、すぐに眠りに就くって意味?

 何も考えずに眠りに身を委ねれば、眠れるよ……と、普段タチアナがテレーズを寝かしつけている言葉を言っただけ?

 いやその、変な事を考えてしまった俺が悪いのだろうか。

 そう言えば、人って眠い時は表面の体温が上がるんだっけ? で、身体の内部の熱を下げるとか何とか……。

 うん。一日中動きっぱなしで、夜になれば眠いよね! しかも、ハルキルク村は街灯とかもないし、灯りも勿体ないから、暗くなったら皆すぐに寝るし。


「んっ……くぅ」


 一応、タチアナの様子を暫く見ていたけど、よく眠っているし、大丈夫そうだ。

 あと、土壁の天井は開いているけれど、灯りは無いし、返しも作っておいたからか、特に魔物が侵入してくる気配もない。

 それに、鍛造スキルを使って作った荒めの網を被せてあるので、上から何かが来たら音で気付けると思う。

 更に虫除けスキルも使用し、俺も就寝する事にした。


……


 ……ソフィが重い? 何かいつもより厚みが増している気がする。

 いつもソフィの背中がある場所を撫でると……何故かとても柔らかい。


「――ひゃんっ!」


 ムニムニしている何かを撫でていると、すぐ傍から変な声が聞こえた。

 何だろうと思って、眠い目を開けると、女性の……タチアナの顔がある!?

 ……そうだっ! 昨日、タチアナが俺に覆いかぶさるようにして眠って……ソフィが俺の上に乗って寝ているいつもの場所よりも、顔の位置が近い!

 じゃあ、ソフィの背中だと思って撫でているのは……まさかっ!?


「あの、領主様はお尻を撫でるのが好きなのですか? ちょっとくすぐったいですけど、別に減る物でもありませんので、好きなだけ……」

「すみませんでしたっ!」


 覆いかぶさっているタチアナにどいてもらうと、即座に謝る事に。

 ただ、何故謝っているのかがわかってもらえず、キョトンとされてしまっているけど。


「えっと、本当に触っていただいて構わないので、謝っていただく理由がわからないのですが……」

「とりあえず、タチアナは服を着よう! あと、この話は終わり! 別にお尻を撫でるのが好きな訳ではないから!」

「はぁ……」


 これ以上は不毛な事になりそうなので、二人で朝食を済ませ、水浴びで身体を綺麗に……って、タチアナはお尻をくっつけて来ないでくれ!

 本当に違うんだっ! いつもの癖でソフィの背中を撫でようとしただけなんだーっ!

 それから、土の上で眠ったので、服も少し洗い……くっ! しまった! 昨日、タチアナは先に川へ入っていたけれど、俺は一度も汗を流していない。

 かなり、汗臭かったのではないだろうか。

 思い返せば、昨晩タチアナの息が荒く感じたのは、俺が汗臭いせいで、鼻で呼吸をしなかったからでは!?

 そんな事を考えながら二人で川を下って行くと、急に視界が開ける。


「タチアナ! やっとだ! 森を抜けるぞ!」

「はいっ!」


 二人で喜びながら走り、薄暗い森を出た。

 久々に明るい場所に出て、少し眩しく思っていると……どうやら目の前に湖があり、太陽の光が反射していたので、尚更眩しく感じていたようだ。

 森のすぐ傍に湖……どこだろうか。

 アポクエの世界には違いないと思うのだが。


「領主様! ……声が聞こえます! この声は……クレアさんかと」

「えっ!? あっ! この湖って、ハルキルク村の水浴びの湖か!」


 なるほど。死の山と湖に囲まれた大きな森で、通常のプレイではこんなところに来ない……というか、来られない。

 海から船で来られる湖ではないし、飛空艇で降りられる場所も無いし、今もゲーム内では移動出来ない水辺を歩いているしな。

 とにかく、ようやく帰れたと安堵していると、


「領主様! 村の様子が変です! 何かに襲われているようです!」

「なんだって!? 走ろう!」

「はいっ! 先行します!」


 タチアナが村の異変を感じ取りて駆け出し、俺も全力で走った。

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