第25話 ハルキルク村の宿

 二つ目の村で取引が済んだので、当初の予定とは異なるけど、街まで行かずにハルキルク村へ戻ってきた。

 元々、往復で十日近くかかる見込みだったけど、半分以下の期間で帰って来られたのは良かったと思う。


「アデル様っ! お早いお帰りで! 御無事で何よりです」

「領主様ー! お帰りなさーい!」


 馬車から降りると、シモンとソフィに出迎えられる。

 もう夕方なので、買ってきたものを皆に配ったり、説明するのは明日かな。


「良い意味で予定外の事があってね。街まで行かずに戻って来たんだけど……俺たちが居ない間に、何かあった?」

「いえ、何もなく平穏無事に過ごせています。これもアデル様が出発前に出してくださった、大量のポテトのおかげです」


 ポテトのおかげで平穏というのはどうかと思うけど……いやでも、食料にするため魔物を狩らなくても良いという意味では、ポテトのおかげなのかな?

 それはさておき、今日もシモンの家に泊めてもらうと、翌朝から早速宿作りを始める。


「アデル様? 宿を作るというのは?」

「二つ隣の村で、キースっていう商人に出逢ってね。今度、大きな馬車で食料や衣類に毛布なんかの類を売りに来てくれるらしいんだ」

「なるほど。隣の村でさえ馬車で一日掛かるし、その商人が泊まれる場所を作って、定期的に来てもらおうという事ですね!」

「その通り」


 これから何をするのかをシモンに説明し、先ずは場所探しを始める。

 村の中心から離れ過ぎず、かつ今後拡張可能なように、周囲に他の家が無い場所を選ぶと、土を集める凝縮するスキルで高さが二メートル程の塀を作り、テニスコートの半分くらいの広さを囲む。


「アデル様。こちらは?」

「倉の代わりだよ。今の倉を改修して、宿にしようと思うんだ」

「なんと! それは凄い! 何かお手伝い出来る事はありませんか?」

「じゃあ、この木の板を屋根代わりにしたいから、上に乗せて欲しいんだ」

「お任せください」


 アチャバニ村で購入した大きな木の板をくり抜いた物をシモンに渡すと、簡単に屋根の上に持ち上げる。

 凄く重くはないけれど、軽くもない木材なんだけど……いや、獣人族の身体能力と比べるのはやめておこう。

 という訳で、次々に板をくり抜き、穴を塞ぐスキルを使っては、更なる板を作り出す。

 何とか倉っぽくなったので、今の倉から荷物を移そうという所で、ソフィがやってきた。


「領主様ー! テレーズちゃんだけズルーい! アレ、ソフィも欲しいよー!」

「アレ? ……あっ! ごめん! 忘れてた! もちろんソフィのもあるよ!」


 キリが良いので、一旦馬車へ戻り、アチャバニ村でテレーズに買った人形と木彫りの馬を全て並べ、好きなのを一つ選んで良いと言うと、


「じゃあ、この子にするっ! 領主様、ありがとー!」

「他の子の分もあるから、村のお友達を呼んできてくれるかな?」

「うん、わかったー!」


 ソフィが嬉しそうに人形を抱きしめ、そのまま何処かへ走り去って行くと、獣人族の子供たちを連れて戻ってきた。

 ソフィと同じ様に好きな物を選んでもらい……無事全員に行き渡ったようだ。

 ついでに、クレアとタチアナにお願いして、各家に調理器具を配ってもらう。

 その一方で、村の倉へ行くと、シモンが待っていた。


「アデル様。ここにあった物は全て新しい倉へ移しておきました」

「ありがとう。助かるよ」


 とはいえ、シモンに手伝ってもらえそうなのはここまでで、次はスキルを使って壁の補修だ。

 穴を塞ぐスキルを使って、壁に空いている穴を塞いでいき、スキルで修復できない割れ目などの隙間については、土を凝縮させて塞いでおいた。

 そして、ようやく出番となるのが、村で買ってきた白い塗料とブラシだ。

 早速家の壁に塗料を……うん。スキルのおかげか、日本でもやった事が無い作業なのに、ムラなく垂れたりする事もなく上手に塗れる。

 ひとまず壁が終わったので、改めて見てみると……


「うん。良いんじゃないかな」


 後でクレアやソフィにも感想を聞いてみよう。

 ハルキルク村の宿作りの第一歩がスタートした。

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