無能と言われて闇堕ちした悪役貴族に転生したら、毎日ハズレスキルが貰えるようになった。四千個のハズレスキルを合成して、新たなスキルを作れるようになった俺は最強かもしれない。

向原 行人

第1話 悪役貴族転生

「なるほど。よりによってアデル・スタンリーか」


 鏡に映る、金髪の生意気そうな子供……八歳の少年、アデルを見つめながら思わず溜め息を吐く。

 というのも、つい先ほどベッドで目が覚め、見た事のない天井が視界に映っている事に気付き、部屋が広すぎる事、自分の視線が低すぎる事、メイドさんが起こしに来てくれた事……で、流石に変だと感じた。

 なので、鏡を暫く眺め、思いっきり頬をつねって、慌てたメイドさんに抱きしめられた結果、睡眠時間を削ってプレイしていたアポカリプス・クエストというRPGの悪役貴族、アデルに転生している事がわかったからだ。


「あの、お坊ちゃま?」

「いや、気にしないで。それより、いつも我儘ばかり言って申し訳なかったね。これからは態度を改めていくよ」

「ふぇっ!? えっと、クレアは夢でも見ているのでしょうか?」


 俺の言葉で、クレアというメイド姿の女の子が目を丸くしているが、それも仕方がない事だろう。

 というのも、このアデルのこれまでの記憶によると、自分が領主の息子だからと我儘を言い放題だし、訓練も勉強もせず、二歳しか歳が離れていないクレアを顎でコキ使っているからだ。

 今日から成人の儀までの間、一分一秒を無駄にせず、己を鍛えなければ。


「クレア。確か、今日は歴史の授業だよね?」

「は、はいっ! そうですけど……」

「先生が来るまでに、これまでの復習をしておきたいんだけど、教えてくれないかな?」

「えぇっ!? は、はい。わかりました! 準備致しますので、少しお待ちください!」


 そう言って、クレアが慌てて部屋を出て行ったので、その間に着替えを済ませておく。

 このアデルは、十歳くらいのクレアに毎朝着替えさせてもらっていて、自分ではボタンも留められないからな。

 そんな事に貴重な時間を費やしていられない。

 なんせアデルは、十八歳に受ける成人の儀で、本来誰もが神様からスキルを授かるはずなのに、何故かスキルを授かる事が出来なかったりする。

 その上、普段から真面目に訓練や勉強を受けていないから能力も低く、結果として辺境の村へ追放され、序盤のボスとなって、主人公に成敗されてしまう。

 ハッキリ言って死にたくはないので、何としてもその運命を避けなければ。


「お坊ちゃま。お待たせしま……えぇっ!? お一人で着替えられたのですか!?」

「あぁ。これからは自分で着替えるよ」

「えっと、お風呂はどうされます? いつも一緒に入ってお身体を洗っておりますが」

「……それも一人で大丈夫だよ」


 戻ってきたクレアの衝撃の言葉でアデルの記憶を探ってみると……うわ、本当だ。

 もう八歳にもなって……いや、ギリギリセーフなのか?

 何にせよ、自分で出来る事は自分でして、授業は全て全力で受ける!

 悪役領主として殺されない為にも、剣と魔法と勉強に社交、全てきっちりこなして、無能と言われないようにするんだ!


「お、お坊ちゃまがお勉強の時間に居眠りをしないなんて……」


 クレアが教科書だけでなく朝食を運んできてくれたので、サッと食事を済ませて、勉強に集中する。

 その後、歴史の先生やマナーの先生に、魔法の先生が来て一日中勉強していたんだけど、


「アデル様が静かに私の魔法講義を聞いてくださるなんて……う、嬉しいですっ!」

「坊ちゃま。素敵です! 頑張ってください!」


 各授業を真面目に受けているだけで、先生とクレアから褒められてしまった。


「お坊ちゃま。では夕食の準備が整いましたら、呼びに参りますね」


 今日の全ての授業を無事こなすと、クレアが部屋を出ていく。

 日本人としての記憶もあるので算数系は楽勝だったし、ゲーム知識で魔法も余裕だったけど、マナーはなかなか骨が折れた。

 日本では思いっきり庶民……というか社畜だったからね。


「さて……もう一つの攻略に取り掛かるか」


 部屋の外の気配を探り、誰も居なさそうなので、静かに窓から外へ。

 アデルの部屋が一階なので、簡単に出る事が出来、周囲を警戒しながら離れにある古い倉庫へ。

 今は使われておらず、鍵も掛かっていないので、そのまま中へ入り、地下へ続く隠し階段を降りていく。

 本来なら、ゲーム終盤にしか来られない場所だけど、俺にはゲーム知識があるので、迷う事なく目的の場所へ。


「さて、ゲーム通りなら……あった! ランダムオーブだ!」


 このオーブに魔力を流し込むと、ランダムでスキルが一つ貰えるという超レアアイテムを手に入れた。

 これで、スキルを授かれない無能と言われなくなるはず!

 運命を回避させてくれ! と願いながら、オーブに魔力を流し込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る