第19話 様変わりしているアチャバニ村

 アチャバニ村という所へ到着したのだが、ここもスピター村と同じく、特に特色のない村だと思っていた。

 だが少し前に来た時とは大きく異なり、大通りに露店が並び……いや、馬車を持ち込んだ簡易店舗というか、屋台のようなものが沢山並んでいる。


「何だか、お祭りみたいですね」

「祭か……なるほど。言われてみれば確かにそうだな」


 クレアに言われてようやく気付いたけど、大通りの両サイドにビッシリ屋台が並んでいる様子は、確かに縁日のようだ。

 よく見れば、精霊祭と掛かれた看板も掲げられていた。

 その看板の近くに、祭の関係者らしき派手な服を着ている人がいたので、ちょっと話を聞いてみる。


「あの、この精霊祭って、どういったお祭りなんですか?」

「その名の通り、森に棲む精霊様たちに感謝の気持ちを伝える為の祭で、三か月毎に三日間行われるんだよ。人も大勢集まるし、近くの街から商人たちがやって来るから、この三日間だけは街より人が多いかもしれないね」

「へぇ……じゃあ、あの馬車を並べている人たちは、街から来た商人なんですね」

「大半がそうだろうね。今日は二日目で、明日には終わってしまうけど、是非楽しんでいってよ」


 なるほど。クレアの言う通りだったな。

 感覚的には日本で言う十五時位なので、宿を押さえて祭りを楽しもうと思ったのだが……


「すみませんね。今日は既に満室なんです」


 何処も宿が空いていない。

 これでは祭を楽しむどころではないし、次の村へ行くにも、スピター村へ戻るにも時間が足りないので、どっちにしろ野宿になってしまう。

 そんな中、別行動で宿を探してくれていたタチアナが戻ってきた。


「領主様。宿ではないんですけと、泊めてくれるというお店を見つけましたー!」

「それは助かる……が、そんな店をよく見つけられたな」

「あはは……その、実は字が読めないので、何かしらの看板が出ているお店全てに聞いて回ったので」


 恥ずかしそうにしているタチアナを労いつつ、新たに教育の問題が浮上した事に内心頭を抱える。

 これも何とか解決しないと……と考えながら、タチアナが見つけてきたお店へ。

 通りからかなり離れた、村の端……森の入り口とでも言うべき場所に、そのお店はあった。

 小さめのコンビニといった感じの二階建てで、看板に薬屋と書かれている。


「いらっしゃい……おや、さっきの」

「はいっ! 村の領主様と、メイドのお姉さんと、妹です」

「ふふっ、四人とも可愛らしいわね。馬車もお店の横に停めておくと良いわ」


 案内されたお店に行くと、クレアよりも少し年上に見える、二十代半ばといった感じの女性が居た。

 可愛いのは四人ではなく三人だと思うが……それはさておき、先ずは案内された場所に馬車を停める。


「初めまして。えっと、泊めていただけると聞いたのですが……」

「えぇ、構わないわ。見ての通り一階は店舗だけど、二階は住居なの。私一人しか住んで居ないから部屋が余っているし、気にしないで」

「ありがとうございます。俺はアデルで、こっちはクレア。そして、タチアナとテレーズです」

「ユスティーナよ……種族が異なるのに仲が良さそうで羨ましいわ」


 そう言って、ユスティーナさんが少し悲しそうにする。

 過去に何かあったのだろうか……と、思ったところで、ユスティーナさんの長い金髪から、尖った耳が出ているのが見えた。

 これは……もしかして、エルフ!?

 そう思った時には、


「わぁっ! 凄ーい! もしかしてエルフさんっ!? 初めて見たー! 綺麗ー!」


 テレーズがユスティーナさんに近付き、マジマジと耳や髪の毛を見つめていた。


「こらこら。ユスティーナさんが綺麗なのは分かるけど、そんなに見たら失礼だよ」

「あっ! ごめんなさーい!」


 慌ててテレーズを止めると、ユスティーナさんが目を丸くして俺とテレーズを見つめてくる。


「……あ、貴方は人間族で、この子は獣人族よね?」

「そうですよ?」

「……人間族や獣人族なのに、エルフを忌避しないの?」

「えっ!? そんな事する訳ないじゃないですか」


 ユスティーナさんの言葉を聞き、思わずテレーズと顔を見合わせる。

 タチアナもキョトンとしているが……クレアだけは、何か困った表情を浮かべていた。


「クレア?」

「あ、いえ。私がどうこうという話ではなく、一般的に田舎の人は警戒心が強いので、そういうのかなーって」

「いやでも、祭りを開いて、いろんな人が来る村なんだが……」


 とは言ったものの、祭りの間だけ来る観光客と、その地に住む者ではまた違うのかもしれないな。


「……ただ、街の人でも、エルフとか獣人族とか関係無しに、よく分からない他種族を避ける人は居るんですけどね」

「そうなのか? 俺はむしろ、もっと知りたいと思ってしまうけどな」


 獣人族の耳とか凄く気になるし、エルフは魔法が得意って聞くけど、どれくらい凄いのか……とか。

 もっと言えば、どんな事を学んでいるのか、好きな食べ物とか、趣味とか、興味が尽きないんだけど。


「領主様ー! テレーズたちの事なら何でも教えてあげるよー! だから、領主様の事も教えてー!」

「ん? 俺の事?」

「うん! だって、いつもソフィちゃんと一緒だもん。テレーズたちにも、もっと色々教えて欲しいんだー!」


 んー……そういう事なら、アレかな?

 テレーズやタチアナにユスティーナさん……いや、クレアにも教えていないであろう、俺流の自己紹介をする事にした。

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