第29話 クレアの全力ごはん

「――っ!? クレアさん。凄く、美味しいです」

「わぁーっ! お姉ちゃん、美味しー!」

「ふふっ。キースさんたちが沢山食材を持ってきてくださったからですよ。おかわりもありますので……はいはい、ちょっと待ってね」


 キースとコートニーさんとの取引が終わり、今日は宿に泊まって明日の朝に帰る……という話になったので、シモンの家でクレアがジャガイモやサツマイモを使った料理を作ってくれた。

 今まで調味料と芋だけで上手く料理を作ってくれていたけど、他の食材が使えるのが嬉しいのか、クレアの料理が止まらない。

 一品一品の量はそこそこに、何種類も作ってくれる。


「旨いっ! ワイバーンの翼に夢中で、このポテトの事をすっかり忘れていたぜ」

「あぁっ!? 兄さん。そのパイは私が食べようと思っていたのに!」

「いや、食べないから要らないのかと思って」

「そんな訳ないでしょ! クレアさんの料理は、街のレストランよりも遥かに美味しいのにっ!」


 キースさんとコートニーさんも、クレアの料理をべた褒めしてくれているのだが、喧嘩しそうになっていたので、慌てて止める。

 まぁクレアは料理スキルこそ持っていないものの、料理の腕は良い。

 それに、今までの材料不足の鬱憤を晴らすかのように、全力で作っているからね。

 そして、その全力の料理を俺たちで見事に完食してしまった。


「いやー、ごちそうさまでした。クレアさんの料理も美味しかったよ」

「ん? 兄さん。クレアさんの料理も……って、どういう事なの?」

「ふっふっふ。何を隠そう、アデルさんの料理も、クレアさんの料理に勝るとも劣らないんだ」

「えっ!? 何それズルい! 兄さんだけ!」


 いや、どう考えても俺よりクレアの料理の方が美味しい……と説明したのだが、コートニーさんとソフィに涙目で見つめられ、明日の朝食を俺が作ると言ってしまった。

 実際クレアの方が料理が上手いのは間違いない。

 ただ俺がこの世界に無い料理を作ったから、珍しく感じただけだと思うんだけどな。


「では、アデルさん。明日の朝食を楽しみにしておりますねっ!」

「俺が言い出した事とはいえ、妹がすまない。明日は追加でポテトも買い取らせてもらうので、宜しく頼む」

「ははは……では、また明日。おやすみなさい」


 ひとまず、食事はシモンの家を借りたが、キースとコートニーが宿へ向かう。

 ちなみに、キースたちが持って来てくれた二台のベッドは、宿に置いている。

 村の全員分のベッドがあるのであればともかく、俺たちだけが使うのも違うと考えた結果だ。


 そして、翌朝。

 いつものように、寝ぼけたソフィが俺の毛布に潜り込んでいたが、水浴びを含めた朝の身支度を済ませると、早速キッチンを借りる。


「アデル様。お手伝い致します」

「領主様ー! ソフィも何かするよー!」


 手伝ってくれるのは素直に助かるので、クレアにはジャガイモを皮付きのまま茹でてもらい、ソフィには卵黄に調味料を加えた物をひたすら混ぜてもらう。

 日本なら電動泡立て器とかを使うところだけど……流石というか、何というか、結構大変だと思っていたのに、ソフィが笑顔でかき混ぜ……しかも速い!

 卵をソフィに任せる一方で、ジャガイモが茹で上がったので取り出す。

 熱いうちに皮を剥いて潰していくんだけど、その間に、クレアにタマネギとニンジンを小さめに切ってもらい、こちらも軽くゆでてもらう。

 卵とこの二つはキースたちが持って来てくれた食材だけど、日持ちしないのか、それともこの世界には存在しないのか……キュウリがなかったのは残念だな。


「領主様ー! 何かねー! 黄色だったのが白くなったー!」

「ちょっと待ってね……うん。もう出来上がりだよ。ソフィ、助かったよ」

「えへへー、どういたしましてー!」


 ソフィに頼んでいたものが良い感じに仕上がったところで、全てを混ぜ合わせ、最後に塩コショウで味を調え……出来たっ!

 ただ、ごはんとこれだけっていう組み合わせはどうかと思うので、これだけを単品で出す事にしてみた。

 パンがあれば、一緒にトーストしたり、サンドイッチに出来たりしたんだけどね。

 さて、日本の知識で作った料理の第二弾はどうなるだろうか。

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