第28話 大量取引

 村の改善に着手して、数日。いろいろと……本当にいろいろと頑張った。

 特に頑張ったのは、板で作った水瓶代わりの大きな箱だろうか。

 この村には水道がないので、湖の水を汲み、各家で大きな水瓶に貯めている。

 その数は家の数と同等しかないので、元倉庫であった宿には無い。

 とはいえ、水瓶を作るスキルなんてないので、木の板を何枚か切り出し、釘もないので、その周りを固めた土で覆う事で何とか形にした。


「領主様ー! 何かねー、大きな馬車があるよー?」

「来たか!」


 ソフィに言われた方角へ目を向けると、俺の馬車の数倍の大きさの馬車がこちらへ向かって来ている。

 村の環境を改善した後は、ひたすらワイバーンの翼を始めとした、魔物の素材を増産していった。

 倉庫も、キースに見せる売る用の物倉庫に加えて、オリジナルのワイバーンの翼……増殖元となる売れない魔物の素材や、村の皆で使う薬や予備の調理器具などを入れておく、保存用の倉庫を離れた場所に作った。

 ひとまずキースに、この村での取引に旨味があると思ってもらい、定期的に来てもらわなければ。

 そんな事を考えながら、午後の日課とも言える素材の増殖作業の手を止め、クレアと共に村の入口へ向かう。

 少しすると、大きな六頭立ての馬車がゆっくりと村のへ入ってきて、御者台にいるキースさんと、その隣に座っていた女性が降りてきた。


「キースさん。お久しぶりです」

「アデルさん。お約束通り、食料や衣類に、寝具の類を持ってきましたよ」

「ありがとうございます。非常に助かります」

「しかし……ハルキルク村に来たのは初めてだが、噂とは大違いで、物凄く立派な村じゃないか」

「ははは、ありがとうございます」


 その噂……というのは知らないけれど、何となく想像はつくので、突っ込まないでおこう。


「ところで、そちらの女性は……奥さんですか?」

「……? いや、まさか。コイツは俺の妹なんです。元々冒険者だったんですが、命を張る割に実入りが少ないからと、引退して商人の見習いをしていまして」

「コートニーと申します。どうぞよろしくお願いいたします」

「アデルです。そして、こっちはクレア。こちらこそ、よろしくお願いいたします」


 クレアよりも少し年上かな? という二十代半ばの女性が握手を求めてきたので、それに応じる。

 アデルとして……貴族の息子として屋敷に居た時は、女性の挨拶と言えばカーテシーだったけど、元日本人の俺としてはこちらの方がしっくり来るな。

 しかしコートニーさんは、元冒険者という割に身体が細く、手も柔らかい。

 後衛の魔法職とかだったのかも。


「そうだ。アデルさん、この村の領主さんか村長さんに挨拶したいのだが」

「キース様。アデル様がこの村の領主ですよ?」

「えっ!? そ、そうだったんですか!? その……すみません」


 クレアに言われてキースさんが慌て始めたけど……言ってなかったっけ?


「いえ、お気になさらず。というか、これまで通りに接していただける方が俺も助かります」

「そ、そう言っていただけると助かります」

「それより、まずは村の倉庫へ案内します。以前に話した通り、前に買い取っていただいた十倍はありますので」


 という訳で、早速キースさんを連れて、売り物用の倉庫へ。

 途中でシモンも合流し、一緒に素材を確認する。


「これは……まさかワイバーンの翼がこれ程大量にあるとは」

「兄さん。これ、もしかしてブラッド・バイパーの皮なんじゃ……」


 キースさんとコートニーさんが、倉庫の中を見渡し、驚きの声を上げ続ける。

 暫くして査定が終わると、キースさんが色々と計算した結果を教えてくれた。


「待たせたね。仮にこちらの倉庫の中の物を全て売ってくれた場合、持ってきた商品を全て買ったとしても、白金貨八枚にはなるぜ」

「ありがとうございます。では、我々も商品を見せていただいても宜しいですか?」

「あぁ、勿論」


 という訳で、今度は俺たちが馬車の中を見せてもらい……うん。流石というか、とても良い品揃えだ。

 偏り過ぎず、バランス良く日持ちしそうな食材が積まれている。

 クレアは小麦に喜び、俺は米があるのが嬉しいし、干し肉もあるな。


「クレア。服と毛布はどうだ?」

「お屋敷の物とは比べられませんが、庶民目線だと上質のものですね」

「わかった」


 とりあえず全部購入で良さそうだなと思っていると、キースさんが奥を見て欲しいと促す。


「要るかどうか分からなかったが、一応ベッドを二台持って来たんだが」

「いや、ありがたいです。そのベッドを含めて、全て買いましょう」

「おぉ、良かった。先程の倉庫の品は全て売ってもらう……で、良いだろうか」

「勿論! 良い取引をありがとう!」


 という訳で、無事に取引が成立し、沢山の食糧や衣類などを得た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る