第67話 夜襲
「領主様っ! 御無事ですかっ!?」
草笛の音と共に、タチアナが俺の寝室へ入ってきた。
流石は獣人族というべきか、行動が早い。
俺が目を覚まし、上身体を起こした時には、ベッドの傍に居るのだから。
「ソフィちゃん。起きて……前に話した緊急事態よ」
「んぅ……領主様、らいじょーぶ?」
「あぁ。タチアナもソフィも、ありがとう」
ランディから話を聞き、刺客がやってくるかもしれないという話になってから、トマ、タチアナ、テレーズの兄妹と、シモンとソフィの兄妹も、この屋敷で寝泊りする事になった。
皆が危険に晒されるかもしれないから……と、俺とクレアは断ったのだが、シモンとタチアナから強い要請があり、あとソフィがこれまで通り一緒に寝たいと言って、こうなっている。
……一応、ソフィは何かあった時の最後の砦という話になっているのだが、起こすのが可哀想なので、このまま寝かせておいてあげようか。
ソフィをゆっくりとベッドに寝かせて、タチアナと共に駆け出すと、廊下の途中でトマが現れた。
「報告します。南の壁を登って侵入してきた者がおりましたが、シモンが駆けつけ、既に捕らえて投獄したとの事です」
「ありがとう。では、あとは俺とシモンでやるから、二人は休んでくれ」
「念の為、複数人で来ていないか確認した後、休ませていただきます」
「すまないな。ありがとう」
そう言って、トマが屋敷の外へ出て行き、タチアナが俺の傍についたまま、シモンの所へ。
「シモン、流石だな。助かるよ」
「いえ。ただ、夜間に侵入してきていますからね。いつもと違い、殴って気絶させています」
「この場合は仕方ないだろう。≪転ばぬ先の夢≫」
方法は問わず、気絶していればこのスキルが使えるので、アサシンの行為を無事に封じ、これ以降にアラート・キャットが鳴く事もなかったので、今日は解散となった。
ただ、これが原因で、翌朝少し面倒な事になってしまったが。
「アデル様。おはようござ……って、どうしてタチアナさんがアデル様のベッドで寝ているんですかっ!?」
「いや、これには訳があって、昨晩タチアナと一緒に……」
「一緒に何をしたんですかっ!? いえ、言わなくて良いです。でも、こうなる事が予想出来たから、タチアナさんたちが同じ屋根の下で暮らす事に、あれだけ反対したのにーっ!」
クレアは一体何の話をしているのだろうか。
ひとまず昨晩の事を説明しようとしたところで、俺のベッドの中からテレーズが出てきた。
「て、テレーズちゃんまで!? アデル様っ!? タチアナさんはまだしも、テレーズちゃんやソフィちゃんは……」
「私がどうかしたのー? 昨日、草笛で目が覚めたんだけど、お姉ちゃんたちが居なくて寂しいから、おにーちゃんのところへ来たのー!」
「草笛……あっ! えっと、その……よ、夜中に悪い人が来たんですか!?」
「うん。大きな音が鳴っていたから、起きちゃった」
昨晩、転ばぬ先の夢スキルを使って寝室に戻ってきたら、部屋の前でテレーズが泣きそうになっていて……結局、タチアナとテレーズも一緒に寝る事になってしまった。
部屋にトマが居れば良かったのだろうが、周囲の警戒に当たってくれていたからな。
「あっ、あっ……えっと、アデル様。ちょ、朝食に致しましょう」
「あぁ、そうだな。ソフィ、朝だよ」
「んー……昨日、一度起きちゃったから、凄く眠いよー」
ソフィも眠そうにしながらも起きてきた。
ひとまず昨日は事情が事情だし、ソフィもテレーズも寝ていて構わないと告げて朝食を済ませると、昨晩の男を入れた牢へ。
「さて、アンタで三人めだが……もう帰って構わないぞ」
「へぇ、失敗した二人が言っていたのは本当か。人を殺す指示さえ出来ない甘ちゃんだな」
「ん? 死にたいのか?」
「やれるもんならやってみろよ。聞いてるぜ。自分を殺しに来た奴に対して、動きを止めるしか出来ないんだろ?」
バカだな。俺のスキルで、その腕を失ったのと同じ状態だから、更生の為にもそのまま返しているというのに。
望みとあれば、腕の一本でも貰おうかと剣に手を掛けると、その前にシモンが動く。
「主の情けを理解しないならば、望みとおり、両腕を使えなくしてやろう」
「掛かったな! ポゼス……」
牢の中に入ったシモンに、男が何かのスキルを使用した。
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