第6話 ハルキルク村

 村の奥にあるシモンの家に案内されると、靴を脱いで家に上がる。

 獣人族は日本のような文化なのだろうか。

 俺は何とも思わないけど、玄関で靴を脱ぎ始めた俺たちを見て、クレアが戸惑いながらついてきた。

 小さなちゃぶ台のような机を囲み、先ずは俺が口を開く。


「最初に俺が領主代行という証明だけど……これでどうだろうか。スタンリー家の紋章が彫られた腕輪なのだが」

「……悪いが、俺たちは今の領主に会った事がない。正直、スタンリー家と言われても知らないんだ」


 なるほど。死の山の麓で小さな村だし、父親がずっと放置していたんだな。

 しかし、この家まで歩いてくる間に周囲を見てきたけど、どの家もボロボロだったし、畑らしき場所には何も植えられていなかった。

 一体どうやって暮らしているのだろうかと思っていると、先にシモンがそこに触れる。


「さて、アンタが何しに来たのかは知らないが、見ての通りこの村には作物も貨幣も何もない。納める税なんて無いぞ」

「いや、税金を取り立てに来た訳ではないんだが……それより、作物がなくて大丈夫なのか? 何を食べているんだ?」

「……魔物の肉だ」


 魔物の肉……って食べられるのか?

 このアポカリプス・クエスト――アポクエには魔物の肉というアイテムは出て来なかったと思うのだが。

 それとも獣人族は食べられるのだろうかと考えていると、表情に出てしまっていたのか、シモンが口を開く。


「ハッキリ言わせてもらうが、アンタたちは食べない方が良いだろう。不味くはないのだが……その、運が悪いとあたるんだ」

「あたる……って、腹を壊すという事か?」

「それくらいで済めば良いのだが……最悪の場合、死の淵を彷徨う事になる。俺の妹のように……」


 詳しく話を聞くと、本来は獣人族でも魔物の肉なんて食べないそうだ。

 ただこの辺りは元々土地が貧弱で、作物も多く実らず、細々と農業をして、何とか食べて来たらしい。

 ところが、今年は魔物が多く発生するらしく、夜に畑の作物を根こそぎ食べられてしまったのだとか。

 とはいえ食べないと空腹で死んでしまうし、魔物を狩ってその肉を村人たちで分け合っているのだが、妹さんが魔物の肉を食べて死にかけたらしい。

 シモンから妹さんの話を聞いていると、奥からその本人と思われる少女が現れた。

 ……現れたのだが、シモンよりも痩せこけていて、今にも倒れそうな程、やつれているように見える。


「あ……お客さん? えっと、お茶を……」

「ソフィ!? 無理しなくて良い。休んでいるんだ」

「けど、お兄ちゃんはお茶の場所も……」

「大丈夫だ。大丈夫だから……頼むから寝ているんだ」

「う、うん……」


 シモンに説得されてソフィと呼ばれた少女が奥の部屋へ戻るが……大丈夫だろうか。


「もしかして、今のが妹さんだろうか?」

「あぁ。そうなんだ……」

「……その、魔物の肉を食べて毒状態とかなら、俺のスキルで治せるんだが」

「ありがたい話だが、ソフィは毒とかじゃないんだ。魔物の肉にあたって以来、魔物の肉を身体が受け付けなくなってな。作物を食べさせてやりたいのだが、村の畑には何も無くて……もう十日以上も水しか飲んでいない状態なんだ」

「それは……何とかしないとマズいな」


 聞けば、ソフィだけではなく、同じ様な症状になっている者が……それも、子供が数人なっているらしい。

 だが、村に農業スキルを持つ者が居るものの、すぐに作物が採れる訳もないし、芽が出ても暫くすると魔物に食べられてしまうと。

 何かソフィや村の子供たちを救える方法は……あっ、クレアの時と同じ様に、スキル合成で何とかならないだろうか。

 ひとまず、食べ物や農業から連想した俺のハズレスキルは、卵を割った時に入ってしまった殻の破片が上手く取れる『卵の殻除去』に、三十秒後に雨が降る事を察知する『雨の気配(弱)』、草笛が上手に吹ける『草笛』……って、食べ物要素が無いな。

 けど、何か……何か作れないかっ!?

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