第4話 襲撃

「≪フリーズ・アロー≫」


 馬で馬車の左側――クレアが座っている方を併走している男に氷魔法を放ち、落馬させた。

 それを見た右側――俺に近い側を併走する男が驚いていたので、その隙に思いっきり蹴飛ばしてやる。

 まずは二人戦闘不能にしたけど、少なくともまだ四人は居るので、油断は出来ない。


「おい! 今、魔法を使ったぞ!? スキルを授かっていない無能野郎じゃなかったのかよっ!」

「俺が知るかよっ! チッ……女が授かっているのは、戦闘に関係ない掃除スキルだけっていうのも嘘じゃないだろうな!」


 クレアのスキルの事まで知っている……やはり父親の刺客で間違いないのか。

 ひとまず、ハズレスキルというだけあって、この状況で役立ちそうなスキルは一つもないので、努力で習得した剣技と魔法で何とかするしかない。


「あっ、アデル様っ! 荷台に人が……え、えーいっ!」

「うごっ!」


 クレアの声で目を向けると、いつの間にか後ろから荷台に上がっていた男が、顔面にカバンを投げつけられ、落下していくところだった。


「クレア、よくやった! 俺の荷物は何でも投げて構わないから、周囲の奴らを倒してくれ!」

「は、はいっ! いきますっ!」


 俺も右側を走る奴が矢を放ってきたので、剣で叩き落とし、氷魔法で凍らせる。

 どうやら右側を走っていた奴の一人が荷台に上がっていたらしく、残るは左側なのだが、クレアが苦戦しているた。


「えいっ! えーいっ! だ、ダメですっ! アデル様、あの人……クレアが投げた物を全部捕っちゃいます!」

「ふっ! ハズレスキルとバカにされていたが、俺のキャッチスキルだって、やる時はやるんだよっ!」


 ……は? あの男、今何て言った!?


「キャッチスキルがハズレスキルだと!? ふざけるなよっ! 本当のハズレスキルっていうのはな、そんな使えるスキルじゃないっ! 足がつったのを治す『キュア・レッグクランプス』や、手で潰せる蚊へのダメージが増大する『ダメージUP(強):蚊』、毒を受けた時に敏捷性が上昇し、ますます毒が回る『ファスト・ポイズン』……言い出したら切りがないが、そういうのをハズレスキルって言うんだっ!」

「……お前は何を言っているんだ?」

「真のハズレスキルの話だっ! ≪フリーズ・アロー≫」


 クレアに投げつけられた物を受け止めまくっていた男だが、氷魔法はキャッチ出来ないようで、無事に落馬する。

 残るは後一人だと思うのだが、その姿が見当たらな……しまった! こいつも荷台に乗り込んでいたのかっ!


「アデル様っ! もう投げられる物がありません!」

「わかった! クレア、手綱を頼む!」

「ふぇっ!? クレアは馬の走らせ方なんて知りませんよぉぉぉっ!」


 後ろでクレアが泣きそうになっているが、俺も荷台に上がって剣を抜く。

 揺れる馬車の荷台の上で盗賊風の男と対峙するのだが、明らかにこいつだけ空気が違う。

 暫し睨み合い……馬車が石でも踏んだのか、大きく揺れたのをきっかけに、互いに接近する。


「はぁっ!」

「うぉぉぉっ!」


 同時に剣を薙ぎ払い……男が膝を着く。

 浅くはない、それなりのダメージを与えたはずだ。


「クソッ! 話が違う……お前、まさかアデル・スタンリーじゃないのか!?」

「……いや、俺がアデルだ。これに懲りたら、二度と俺たちの前に現れるな」


 一瞬、アデルではないと言ってやろうかとも考えたけど、別の馬車が襲われても困るので、正直に認めておいた。

 だが、これが甘かったのだろう。


「きゃぁっ!」

「クレアっ!? ……このっ! ≪フリーズ・アロー≫」」


 気配を消していたのか、いつの間にか御者台に別の男が乗り込んでいて、クレアの腕が浅く斬られた。

 氷魔法で動きを止め、跳び蹴りで馬車から落とす。

 俺がアデルだと認めたからクレアが斬られたと、自分の甘さを猛省していると、リーダー格の男が動く……が、少し意表を突かれる。


「女を傷付けたのは済まない。あくまで我らのターゲットはアンタだ。雇った盗賊どもの士気を上げる為に、女を好きにしろと言っただけで、本当に手を出すつもりはなかった」

「貴様、今更何を言って……」

「これは詫びの印だ。我らの刃には即効性の毒が塗ってある。解毒剤は我らも持っていない。何とか、どこかの街で治療を受けてくれ」


 そう言って、男が懐から何かを床に置くと、自ら荷台から飛び降り、走る馬車から遠ざかっていく。

 いや、それよりも今はクレアだ。


「クレアっ! 大丈夫かっ!?」

「あ、アデル様。少し寒気が……」


 クレアの斬られた箇所を見ると、早くも紫色に変色している。

 マズい……薬の類を入れたカバンを用意していたのだが、クレアが投げてしまっており、何も残っていない。

 馬車に残っているのは、着替えやクレアの仕事道具などが入った大きなカバンだけ……


「ん? あれは!?」


 一旦馬車を停め、クレアを抱きかかえたまま荷台の隅に転がっている珠を拾う。

 見覚えのあるこれは……ランダムオーブ!?


「うぅっ……」


 クレアが苦しそうにしているし、これに賭けるしかないのか!

 頼む! 治癒魔法か解毒魔法のスキルを授けてくれっ! クレアを助けたいんだっ!

 十年前と同じように、心の底から祈りながら、オーブに魔力を流した。

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