第31話 失念
「柔らかすぎるぅ……すぅ」
まだ日が昇り始めた早朝という頃に、もう日課みたいな寝相になりつつあるのだが……ソフィが転がって来て俺の上に乗ってくる。
キースさんたちが持って来てくれた新しい布団を各家に配ったんだけど、ソフィはフカフカの布団にまだ慣れないようだ。
夜は睡魔が勝つのかすぐに寝るんだけど、朝方になると最近は毎日こんな感じで、俺の上で眠っている。
とはいえ、起こすのも可愛そうだし、ここ数日は寝る前にノートを確認して、この時間に何か新たなスキルを合成出来ないかと考える時間になっていた。
「……って、そうだ。もう前回のガチャから、十日過ぎているな」
キースさんとの取引の準備をしたり、購入した物で村を改善したり、次の取引をどうするか考えたり……と、ここ数日忙しく過ごしていてすっかり忘れていたな。
という訳で、ソフィを起こさないように気を付けながら、ハズレスキルガチャを発動させる。
――『鏡面磨き』スキルを入手。革を丸一日磨くと、輝く程綺麗になります――
――『プロテクト・ドリズル』スキルを入手。霧雨程度の水から濡れるのを防ぎます――
――『泳力UP:全裸』スキルを入手。全裸の時だけ、泳ぐ速度が向上します――
――『無効化:バナナの皮』スキルを入手。バナナの皮を踏んでも滑らなくなります――
――『予知夢』スキルを入手。時々、未来に起こる事を夢で見ますが、目覚めたら内容を忘れます――
――『魔力UP(弱):眼帯』スキルを入手。眼帯装備時に魔力が微増します――
――『焚き火の癒し』スキルを入手。何もせずに焚き火を見つめていると、魔力の回復速度が向上します――
――『識別:猫』スキルを入手。猫の種類の判定が出来ます――――
――『被ダメージDOWN(弱):家具』スキルを入手。家具の角に足をぶつけた際に、少しだけ痛みが和らぎます――
――『クリエイト・サンド』スキルを入手。少量の砂を生み出せます――
――『ファスト・ポイズン』スキルを入手。毒を受けている間、敏捷性が増加しますが、毒も早く回ります――
何というか、相変わらずだな。
予知夢スキルは一瞬良スキルだと思ったけど、起きたら忘れてしまうのであれば意味が無いし、魔力が上がるスキルは有用なんだが、発動条件が眼帯を着けてる時というのは……ちょっと恥ずかしい。
最後のクリエイト・サンドとファスト・ポイズンは以前に合成したものだが……クリエイト・サンドはまた合成に使えるかもしれないな。
そんな事を考えているうちに朝になり、
「もうっ! ソフィちゃんったら、またアデル様と……」
起きたクレアがソフィの寝相を見て呆れているけど、布団に慣れるまでは仕方がないと思う。
それに、日本と違って夜更かしする意味もないし、毎日早く寝るから睡眠時間も十分どころか、多過ぎるくらいだしね。
それから、ソフィが起きたら一緒にクレアの作ってくれた朝食を食べ、水浴びに行き、次のキースさんとの取引のためコツコツ魔物の素材を増やしたり、新しい作物を植えてみたりしていると、
「領主様ー! 誰か来るよー! 知らない人たちー!」
昼過ぎにテレーズがやってきた。
「ありがとう。キースさん……かな?」
「でも、馬車じゃなくて、歩いてるよー! 四人ー!」
「四人? ……あっ! しまった!」
俺の場所からは、村を囲う土壁で姿が見えないが、徒歩の四人組と聞いて、誰がやって来たのかを理解した。
以前に、何か忘れている気がしていたのだが、今になってようやくそれが判明する。
「……主人公パーティだ」
「えっ? 領主様? どうしたのー? 顔色が悪いよー!? クレアさんを呼んで来ようか?」
「い、いや、大丈夫だ。それより……いや、何でもない」
一瞬、テレーズに家の中で隠れている様に……と言おうとして、止める。
というのも、アポクエでは俺が……アデルがこの村を支配下に置いており、どうやったのかはわからないが、アンデッドだらけで生きている者が居ない村だった。
だから、主人公が序盤に村を解放しようとやって来て……ボスであるアデルを成敗するというストーリーだ。
今はアンデッドなんて居ないし、俺は村を支配なんてしていない。
いや、いきなりやってきた領主ではあるけど、支配とは違うはずだ。
なので、やってくる主人公たちについて、住人たちに変な事を言わず、ただの旅人として向かえる事にした。
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