第32話 アポクエの主人公パーティ

 四人組の主人公たちがゆっくりと堀を渡ろうとしている。

 流石にここまでくれば俺の目でも直接確認出来ているが、勇者と呼ばれる主人公に、戦士の男と僧侶の女、魔法使いの男というアポクエ通りのパーティだ。

 ただ、アポクエは主人公の性別を選択可能なのだが……これはどっちだ?

 顔は女主人公に見えるのに、胸が全く無いように見える。

 女主人公は、結構胸が大きいキャラデザだったはずだが……装備している革の鎧のサイズが合っていないのか?

 そんな事を考えているうちに、堀を渡り切った主人公が話し掛けてきた。


「あ、あの、すみません」

「はい、何でしょうか」

「実は、魔物との戦いで疲労困憊でして、この村に宿屋は……」

「残念ながら、この村に宿屋は無いんです」

「そ……そうなんですね」


 主人公が悲しそうに俯くが、嘘は吐いていない。

 キースさん用の宿は用意したが、宿屋として運営している訳ではないからな。

 それに本音を言うと、アポクエでアデルを殺すメンバーなので、出来ればこの村に関わって欲しくない。

 とはいえ、本来ならば国王からこの村を救うという依頼を受けている四人だが、今はその依頼が発生していないはずなので、その影響を見極めたいとは思う。


「こほん。宿屋はありませんが、ベッドと食事は提供出来ます。お困りのようですし、一晩なら……シモンも構わないよね?」

「もちろんです。アデル様がそう仰るのであれば、我々は従うまでですよ」

「……という事で、ようこそハルキルク村へ。皆さん、こちらへどうぞ」


 シモンの許可も得たので、主人公たちを村へ招き入れると、


「あ……ありがとうございますっ!」


 顔を輝かせて頭を下げた。

 うーん。主人公の顔は女の子だし、声も女の子で、身長もクレアくらいなので、やっぱり革の鎧のサイズが合っていなくて胸が小さく見える少女……かな?

 確かアポクエの主人公は十六歳だったはずだ。


「そうだ。名乗り忘れておりましたが、俺はアデルと言います。こっちは村の代表のシモンです」

「こちらこそ、失礼しました。ボクはブレアです。国お……こほん。えっと、ある依頼を受けて、仲間たちと旅をしているんです」


 ブレア……うん。やっぱり女主人公を選択した時の名前だ。

 よく見れば腕も足も……というか、身体が細い。

 それに、後ろを歩くブレアの三人の仲間たちも、少しずつアポクエのグラフィックと異なっている。

 斧使いの戦士は細身剣を持っていて、僧侶はアポクエに存在しないはずの眼鏡を装備し、魔法使いの男は……若っ! 確か、お爺さんじゃなかったっけ?

 これは……アデルが闇堕ちしていないのとは無関係だよな?


「ブレアさん。こちらの家をお使いください」

「ありがとうございます! 本当に助かります!」

「後で、夕食も準備しましょう」

「何から何まで……あっ! でも、ベッドは二つだけなんですね……」


 ベッドに目を向けたブレアが、両腕で胸を隠す。

 あー、ブレアと僧侶は女性だけど、戦士と魔法使いが男だからか。

 部屋に仕切りなんかもないし……キースさんとコートニーさんは兄妹だから気にしなかったのだろうが、装備的にもアポクエの序盤だし、まだパーティ内で信頼関係が構築出来ていないのかもしれないな。


「いや、オレは外で寝るから気にするな。魔物に襲われずに休めるというだけで十分だ」

「ぼ、僕も外で良いです」

「空いている家はここしかないので……馬車の荷台はどうでしょうか。毛布なら沢山あるし、幌もあるので幾分かマシかと」


 戦士と魔法使いの二人が外で寝ると言い出したので、荷台を提案すると、物凄く感謝されてしまった。

 幌はあるものの、前と後ろが開きっ放しで閉められないタイプだが……まぁ外よりはマシだと思う。

 早速荷台を宿の横に着け、毛布を運ぶと、まだ夕方にもなっていないのに、早くも眠ってしまった。

 見たところ、酷い怪我などはしていないが、特に戦士がボロボロではある。

 おそらく強い魔物に遭遇し、何とか倒したものの、治癒魔法で動けるところまで回復させたところで、僧侶の魔力が尽きたと言ったところだろうか。

 ……この村は、序盤のボス的な存在になっているため、出現する敵が少し強めに設定されているのは確かだ。

 とはいえ、普通にレベリングして装備を整えていれば、そこまで苦戦しないと思うのだが……もう少し主人公一行について調べたいな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る