第38話 タチアナ
ブレアたちの依頼を手伝うべく、俺も一緒に行くと言い、クレアたちから反対されてしまった。
だが、放っておいたらブレアたちが無理を重ね、取り返しのつかない事になるかもしれない……と、やや強引に押し進める。
その結果、翌朝……
「おにーちゃん! おはよー! あーっ! ソフィちゃんと一緒に寝てるー! テレーズももう少し寝るー!」
「テレーズ。領主様は朝の支度をしないといけないから、少しだけよ?」
いつものように、目は覚めているがソフィが起きないので動けずにいる俺の毛布の中に、何故かテレーズが入ってきて、更にタチアナが微笑ましく眺めている。
いや、そこはテレーズを止めて欲しかったのと、どうして朝早くから二人がシモンの家に来ているんだ?
「んー、領主様。おはよー。今、テレーズちゃんの声が聞こえたような気が……すぅ」
「いや、ソフィ。テレーズとタチアナが来ているから起きようか。クレアの食事も出来ているみたいだし」
ソフィが二度寝……というか、一度起きたのでそのまま起こし、皆で朝食を食べながら、どうしてテレーズたちがここに居るのか聞いてみると、二人よりも先にシモンが口を開く。
「あ、俺が呼びました。死の山へアデル様だけを同行させるのはやはり反対です。とはいえ、俺やトマ……戦える獣人族が同行するのもダメなんですよね?」
「あぁ。その間に村で何か起きたら困るからな」
「という訳で、以前に馬車で出掛けた時と同じく、タチアナに同行してもらおうかと思いまして」
なるほど。獣人族は女性……しかも幼いソフィやテレーズでさえ、俺よりも力が強い。
身体能力だけで考えれば、今のブレアたちや俺よりもタチアナの方が上だろう。
とはいえ、あくまでそれは身体能力に限った話だ。
実際に戦闘となった時に、戦えるかというと全く別次の話となる。
仲間との連携、魔物の行動パターンの知識、怪我をするかもしれないという恐怖に打ち勝って攻撃する精神力に、強大な敵に遭遇した時の対応など、経験と知識の差が如実に出てしまう。
「アデル様。タチアナの実力を疑問視される気持ちはわかります。ですが、武器こそ使えないものの、体術は優れているのでご安心を」
俺の懸念が表情に出てしまっていたのだろう。
シモンがタチアナを同行者に選んだ理由を説明するのだが、単純に魔物とも戦える……という事だった。
そして、タチアナを同行させなければ、シモンが勝手について行くとも。
「わかった。タチアナ、宜しく頼む」
「はい。こちらこそ、宜しくお願い致します」
ちなみに、テレーズとソフィ、クレアも同行したいと言ってきたが、テレーズはタチアナに。ソフィはシモン、クレアは俺から却下した。
馬車で街に向かった時とは危険度が全然違うからね。
ただ同行するタチアナも、普段着……先日キースさんが持ってきてくれたシャツとスカートという、動き易いくてスピードを殺さないけども、防御力的には何も無いに等しい格好だ。
俺も防御力的には大した事がないけれど、テレーズみたいに脚や腕を露出している訳ではない。
これから魔物が出る山に……それも獣道に入るので、何とかならないだろうか。
「タチアナ。長袖のシャツとズボンとかの方が良いのでは?」
「領主様。先程シモンさんから話があった通り、私は敏捷性を活かした体術で戦うので、動きを制限するものはちょっと……」
「そ、そうか」
アポクエにも、防御力を捨てたスピードタイプのキャラは沢山居るので、強くは否定できない。
けど、山の獣道を素肌を曝け出して歩くのはなぁ……。
何か防御とか、せめて虫避けとかのスキルを作れないだろうか。
動きを邪魔してはいけないという制約があるので、服に関するハズレスキルを思い出してみると、
『手尺採寸』直接手で触れる事で身体を採寸できる。
『洗浄:革』汚れた革を綺麗に出来るが、縮んでしまう。
『悪食:革靴』革靴を食べてもお腹を壊さない。
うん。触って採寸するなんて絶対アウトだし、服を綺麗に出来るのは良いけど縮んじゃダメだし、悪食に至っては革から連想して思い出しただけで使いようがない気がする。
いやでも、意外に……こんな感じのスキルでどうだろうか。
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