第23話 懸念事項
「ふゎぁーっ! アデル様っ! 何ですかっ!? これは何ですかっ!? とっても美味しいですっ!」
クレアが普段の少食っぷりからは考えられないくらいにお好み焼きを食べている。
テレーズとタチアナに至っては、無言でひたすらおかわりしていた。
「アデルさんは料理がお上手なんですね。こんなに美味しいキャベツ焼きは初めてです」
「ありがとうございます」
「これは、生地が違うのでしょうか。凄くふんわりしている気がします」
ユスティーナさんにも褒められたけど、この世界ではキャベツ焼きという名前で、昔からある料理らしい。
とはいえ生地を混ぜている時に、スキルで出した山芋をすりおろして混ぜているので、ここで味がぐんっと上がったみたいだ。
「こっちのポテトも凄いな。茹でたポテトにバターを乗せただけに見えるんだが……どうして、こんなに旨いんだ!?」
「う、うちの村の特産品だからです」
「なるほど。ポテトなら日持ちもするだろうし、これは是非村へ行った時に買って帰らせてもらおう」
うーん。魔物の素材は、俺のスキルで増殖させているとはいえ、村人たちが獲ったものなので、特産品として売りに来た。
けど俺のスキルで出したポテトは、村で採れる訳ではないから、売り物にするつもりではなかったのに……迂闊だったな。
とはいえ、皆で和気あいあいと楽しい夕食の時間を過ごし、キースさんが宿へと帰って行った。
夕食の後片付けなどを済ませ、ユスティーナさんの家の一室を借り、皆で就寝する事になったところで、クレアがそう言えば……と疑問を呈する。
「アデル様。距離的に考えてキースさんがハルキルク村へ来た際、村へ泊まられると思います。しかし、宿などがないのですが……」
「あっ! 本当だっ!」
毛布などをキースさんに注文したので、寝具はそれを使ってもらうとしても……流石に馬車で一泊というのは申し訳ない。
何より、定期的に村で商売してくれるようにしたいのに、来る度に馬車で野宿なんて事だと、もう来てくれなくなる。
村の住人の為に、食料と衣類と毛布はキースさんに頼んだ。
明日、昼にはこの村を発たないと、隣の村へ戻れずに野宿をする事になってしまう。
俺だけならまだしも、クレアたちを野宿させる訳にはいかないので、それまでに村への来客者が宿泊出来るようにする手段を考えないと。
「ふわぁ……領主様、おやすみー!」
「おやすみなさい、領主様」
「あ、あぁ。おやすみ」
テレーズたちは、もう眠そうというか、完全に寝る準備が整っているし、今からノートを取り出してゴソゴソしたり、灯りを点けるのは良くないか。
家とか建物に関連しそうなスキルは何があったっけ?
確か……
『バスルーム・ハーモニー』お風呂に入っている間だけ歌が上手くなる。
『ディテクト・ハイト』対象の高さがざっくりわかる。
『敏捷性UP:釘打ち』釘を打っている間だけ素早くなる。
『ノコギリ演奏』ノコギリを使って良い感じに音が出せる。
『ペイント・グラフィティ』落書きが上手になる。
とかかな?
ベッドの中で何とか思い出せたのが、これくらいだけど……いや、落書きスキルなんて使い道がないだろ。
今からでも、こっそり抜け出して、どこかでノートを見ようかな。
……いや、テレーズたちは既に熟睡していそうだけど、クレアに悪いか。
他に何か思い出せないか……と考えているうちに、俺も眠ってしまったのだが、
「……さまー。領主様ー」
隣のベッドで眠っていたはずのテレーズに揺すられ、起こされる。
「……ん? テレーズ? どうしたの?」
「……あのね、トイレに行きたいの」
タチアナは……あー、起こそうとしたけど起きなかったのか。
クレアは……いや、既に俺が起きたのに、更にクレアまで起こすのは可哀想か。
という訳で、テレーズを連れてトイレへ。
そういえば、ハルキルク村には村で共有のトイレが一つあるだけなので、いつかはこれも何とかしないとね。
そんな事を考えながら、トイレのドアの前で待っているのだが、
「りょ、領主様ー。怖いから一緒に入ってよー」
「いやいやいや、それは流石に……」
「早くー! 漏れちゃうー!」
テレーズの……獣人族の力で引っ張り込まれ、トイレの中で耳を塞ぎながら、ずっと目を閉じる羽目に。
……実年齢と身体の年齢にギャップがあり過ぎるのは、どうにかならないものだろうか。
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