第18話

「これ、サービスね」

 不意に店主に声をかけられ、コトンと置かれたお皿には卵焼きが乗っていた。

「わぁ、ありがとうございます。ここの卵焼きも大好きなの、食べてみて」

 最後の言葉は私へ向かっていた。

「あぁ美味し、このくらいの塩加減好きです」

「やっぱり! 味の好みが似てるのかも」

 うんうん、と頷いている。

「この前課長が作ってくれた卵焼きも絶品でしたよ、コレに似てるけど少しまろやかだった気がします」

「あれね、マヨネーズ入れたのよ」

「へぇ、マヨネーズ!」

 なるほど、今度私もやってみよう。



「課長、今日は楽しかったです」

「私も楽しかったわ、ありがとう」

 食事を終えた帰り道。

 楽しい時間は終わりを告げようとしている。

「ご馳走様でした、今度は私に奢らせてくださいね」

「うーん、それはちょっと」

 次回の約束を取り付けたかったのに渋る課長。

「部下に奢られるのはどうかと思うのよ」

「それは関係ないと思いますよ、業務時間外ですし」

「でも、歳とか給料の差とか。やっぱり奢ってもらう訳には……」

 そういうものなのだろうか、私は対等でありたいだけなのに。それに毎回私が奢ってもらうことになれば、誘いにくくなる。それ目的だと思われたくない。

「今日のお礼ということで、どうですか?」

「お礼のお礼?」

「はい」

「それだと永遠に終わらないわね」

 クスリと笑う。

「そうしたいです」

「え、私との食事を?」

「はい。課長は嫌ですか? もちろん忙しい課長の負担にならないようにします。時間のある時で構いません」

「そうねぇ」

 課長は神妙な顔でしばらく考えていた。

「わかったわ、でもお互い負担にならないように、基本は割り勘ということにしましょうか」

 それって、食事をする事はオッケーということだよね、やった!

「はい」

 思わず小さくガッツポーズをしたのを見られたけれど、微笑まれただけで何も言われることはなかった。

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