第58話
その夜は、ウィークデイだけど雛子さんの家へお邪魔した。
週末には泊まっているから私の私物も少しずつ増えている。
「ただいまぁ」
「おかえりなさい、雛子さん。えっ、どうしたんですか」
雛子さんが固まっている?
「感激しすぎちゃって、体が動かなかった」
だって小春がうちにいるんだもん、なんて言ってるし。
退勤時に、遅くなりそうだからって鍵を私に預けたの、雛子さんでしょうが。
で? 両手を広げているのはやっぱり、ハグしろってことよね。
はいはい、家だからどれだけでもしますよ!
「雛子さん、おつかれさま」
「んん、小春だ」
ぎゅうぎゅうと苦しいほどに締められて、そのまま5分ほど玄関先にいたというね。付き合い出してからの雛子さんは、それまでが嘘のように甘々で、嬉しいんだけど照れるというか自分が恥ずかしいというか、ほんとに私でいいの? と思ってしまうこともあるのだが、言うと怒られそうだから黙っている。
「福地さん、良さそうね」
二人で食事をしながら、やっぱり話題は職場の話になる。
「ですね、可愛いから職場のアイドルになりそうですね」
そう言ったら、雛子さんの箸が止まったけど、なんで?
「歓迎会は金曜日だって?」
「はい、雛子さんも出席ですよね?」
「いつも通り、最初だけにするわ」
「そっか、私も早めに出たいけど、なんだか幹事っぽくなってるしな」
「ゆっくり楽しんでこれば? 迎えに行こうか?」
「え、嬉しい。けど、早く帰った課長が迎えに来たら噂になっちゃいますよ」
「そうねぇ」
しばらく無言で食事をしていたが、雛子さんが口にした。
「小春は、私たちの関係を誰かに喋ったりしてないのよね?」
「はい、もちろん。告白した時に一緒にいた小林さんと岡林部長代理はご存知ですけど、あの人たちは他言しないと思うし」
「そうね、私の方は氷室さんと部長は気付いてるっぽいわね」
もし社内の人に知られたら、私はともかく課長のキャリアに傷がつく。それだけは絶対に避けたいこと。
なのに、何故?
週明け、出社したら社内が騒ついていて、朝早くから小林さんから連絡が来た。しかも通話でなんて珍しい、なんだろうと思ったら。
「山本さん、課長とのこと噂になってるよ、大丈夫?」
「え、なんで?」
「なんかね、各部署の主任以上の役職の人の社内メールで流れたんだって! 私も岡林さんに聞いたの。今日課長と話した?」
「まだ。今フロアにはいないし」
「そう、連絡取った方がいいかもね」
「わかった、ありがとう」
「私は、味方だからね」
うっ、泣きそうだ。でも、まずは雛子さんに連絡しなきゃ。
繋がらない、何がどうなってるんだろう?
あの時、私たちの関係のことを話した時、もしかしたら既に噂になってたの? それで私に、誰かに話したか聞いたの?
雛子さん、今どこにいるの?
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