小春の憂鬱
第57話
雛子さんとの交際は順調にいっている。基本、週末にはデートをし時にはお泊まりもしているし、言いたいことはお互い伝え合って、喧嘩なんかもしていない。家での雛子さんは甘々で「好き」もたくさん言ってくれて、私はその倍くらい言い返しているから。
はたから見れば、所謂バカっぷるかもしれない。
何が言いたいかというと、幸せの絶頂なのだ、けれど一つだけ憂鬱なことがある。
「どう、困ってることない?」
「飯田課長、この書類はーー」
「課長、パソコンが動きません」
「課長、いつも綺麗ですね」
主任が研修中で不在なこともあって、雛子さんがみんなに話しかけるのだ。
今までは遠い存在だった課長がそんな笑顔で接してきたらさーー
おい、パソコンくらい自分で治せ!
綺麗って言うな、いや雛子さんは綺麗だけどセクハラじゃ! 仕事しろ!
雛子さんは奥のデスクでじっとしててよ!
私は心の中で悪態をつく。
ーー雛子さんの魅力がみんなにバレちゃうじゃん。
「ねぇ、こ、山本さん! どうかした?」
「いえ、大丈夫です」
「課長、ちょっといいですか?」
お昼休み、雛子さんを捕まえて使われていない会議室へやってきた。
「どうしたの、小春。怖い顔して」
「会社では山本でお願いします」
「今は誰もいないでしょ」
「いなくても! さっき小春って言いそうだったでしょ?」
「なんだ、バレてたか」
「笑い事じゃないですよ、みんなに知られたら困るのは課長ですよ」
「わかったわ、気をつけます。ねぇ、今夜うちに来ない?」
「今日まだ水曜日ですよ」
「週末まで待てない、ダメ?」
「ダメってわけじゃないけど」
「いいのね、決まり」
あれ、なんか丸め込まれた感じ……
「じゃあ、はい」
「なんで両手広げてるんですか?」
「約束のハグ」
は?
「うーん、これで午後も頑張れるわ」
それは、私もそうなんだけど。
一度くっついてしまうと離れたくなくなるのが難点なのだ。
職場恋愛は難しい件。
「みんな集まって! 今日から一緒に働く二人を紹介します」
雛子さんが集合をかけてみんなを集める。
今後、会社内でのプロジェクトが始まると主任と私がこのチームから外れてそちらへ参加する。その補充のために加わる二人。
「浅井さんは他部署からの異動で、福地さんは中途採用となります。山本さんは福地さんにいろいろ教えてあげて、まだ少し先だけど引き継ぎもしっかりお願いね」
「はい」
「では、各自持ち場に戻って、よろしく」
「山本さん、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしく。歳も同じくらいよね?」
ふわふわした感じの可愛らしい人。
「そうです」
「あ、だったら俺ともタメだね、よろしく」
隣から身を乗り出して絡んでくるのは、やっぱり同期の相澤か。
「今日、歓迎会やろうぜ。いいだろ、山本」
「今日?」
いくらなんでも急すぎだし、今日は雛子さんの家へ行く予定だし。
ほら、雛子さんもこちらを気にしてるよ。
「いきなり今日は無理だから、金曜日あたりにしようか。はい、相澤仕事して」
「オッケー」
はぁ、全く。相変わらずだなぁ相澤は。
「仲良いんですね」
「え?」
「チームのみなさん。それに課長も素敵な人で」
「あぁ、うん。そうだね」
ほらね。
私の憂鬱ーー雛子さんが人気者になってる件。
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