雛子の憂鬱

第59話

 小春に怒られた。

 奥のデスクでじっとしてて! だってさ。

 でも主任がいないんだから、私がみんなに声かけたっていいじゃない、ホウレンソウよね!

 なんて、本当は私が少しでも小春の近くにいたいだけなんだけど、どうしてバレたのか。

 私が小春って呼びそうになったのもバレてたしなぁ、しばらくはおとなしくしておきましょうか。


 新しくチームに加わった二人はすぐに馴染めそうね、ほら今も仲良く仕事を教えてもらってって、ちょっと福地さん、小春に近づき過ぎじゃない? 年齢も近いし可愛いし、小春が好きになっちゃったらどうするのよ。こんな奥の席でやきもきしてる私のことも考えてよね。

 耳を澄ませば歓迎会の話題になってる。今日は小春がうちに来てくれるんだからやめてよね!


「ただいまぁ」

 自分の家に、ただいまと言って帰る、おかえりなさいと迎えてくれる人がいる。なんて幸せなんだろう、感激だわ。

 思わず抱きしめて、スンスンと匂いを嗅ぐ。あぁ小春だぁ。

 ずっとこのままでも良かったのだけど、雛子さんいい加減ご飯食べますよと小春に言われる始末。


「福地さん、良さそうね」

 私がそう言ったなら。

「可愛いから職場のアイドルになりそうですね」

 なんて言う。

 待って、可愛いって?

 私は仕事が出来そうという意味で言ったのに、小春はそういう目で見てるの?

 やっぱり若い子の方がいいのかな、いやいや、そんなことないよね、私たちラブラブよね?

 話題を変えよう。

 歓迎会は金曜日に決まったらしい、私はいつものように最初だけ顔を出しすぐに帰ることにする。本当は小春が心配だけど管理職はいない方が良いと思うから。

 小春に「迎えに行こうか?」と提案したら、「課長が迎えに来たら噂になっちゃう」なんて言う。

 噂になったらダメなんだろうか、私と小春が恋人同士だと知らせたなら小春を狙う人は少なくなるんじゃないだろうか。

 とにかく私は、小春が可愛いから誰かに取られちゃうんじゃないかって、いつも不安に思っている。小春に言ったら「そんなわけない」って怒ってくれるかな、そうだったらいいな。


「小春は、私たちの関係を誰かに喋ったりしてないのよね?」

 たとえば同期の相澤くんとかは知らないのかな?

 聞けば、経理の小林さんと営業四課の岡林さん以外は知らないと言う。

 そうか、あの二人なら噂が広がることはなさそうね、残念。

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