第11話

そう思って数日が経過、待っているだけじゃやっぱりダメだ、何か手を打たなければ。

「主任、何か手伝うことありますか?」

 主任は課長との接点がある、1日に何度も報告している姿を見ている。主任の近くにいればあるいは……という思惑。

「そうねぇ、じゃあこの資料持って付いてきて」

 お、これは幸先良いんじゃ?

 期待して向かった先は……倉庫だった。

「資料を月ごとにファイルすれば良いんですね、やっておきます」

「そう? 悪いけどお願いね」

 そう言って主任は出て行った。

 そうだよね、そんな上手くいくわけないよね。仕事は仕事、ちゃんとやろう。

 こういう地味な仕事も、後々調べ物をする時の役に立ったりするんだから大事なんだよ、自分に言い聞かせて終わらせる。

 さて戻ろう、倉庫を出たところでバッタリと出くわしたのは他ならぬ飯田課長。まじ?

 向かいの小会議室から出てきたようだ。

「あら山本さん、資料の整理?」

「あ、はい」

「おつかれさま」

「か、課長」

「ん?」

「あのーー」


「お待たせ〜、あれ、どうかした?」

 小会議室から今度は部長が現れて課長と私に話しかける。


「いえ、なんでもないです。お先に失礼します」

 危なかったぁ。

 良かった、仕事中に変なこと言わなくて。それにしても部長と課長、二人とも品があって仕事も出来て憧れずにはいられない。私は会社訪問で二人の話を聞いてこの会社を第一志望にしたのだ。私もあんなふうになりたいと思って。



「山本、今日飲みに行かない?」

 その日の終業後、同期の相澤が誘ってきた。たまにこうして突発的に同期で集まることもありそれはそれで楽しいのだが、今はそういう気分じゃない。

「ごめん、今日はやめておく」

「そうか、わかった」

 帰る間際、もう習慣になったように課長を目で探すと今回はしっかりと目が合った。相澤の声が大きかったからこちらを見ていたようだ、無駄に大きくてよく通る声なんだよなぁ。

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