第12話

 次の日の朝、私は早めに出社してみた。

 予想通り、ほとんどの社員は出社前だが飯田課長は既にそこにいた。

「おはようございます」

「お、おはよう、早いのね。何かありましたか?」

 驚いている顔が新鮮で見惚れてしまった。

「いえ、ちょっと早く起きてしまって」

 いつもなら二度寝するところだけど、課長と話したくて来ちゃった! とは言わないけれど。

「課長はいつも早いんですね」

「ええ、まぁ」

「あの課長、少しお時間ーー」

 いいですかと続けようとした時に、課長のデスクの内線電話が鳴り響いた。

「ちょっとごめんね」

 そう断って電話を取る課長。

 こんな時間に内線ということは、相手も早くから出社していて且つ課長が出社している事を確信しているということ。

 私たちのような一般社員の知らない仕事の話、なのかな。

 長くなりそうだったので私は自分の席へと戻り、やる事もないので掃除なんかして、今日の仕事の準備もして過ごす。

 課長は呼び出されたようで、資料を抱え部屋を出て行った。


 はぁ、なかなかゆっくり話せないなぁ。

「どうした、何か悩んでるの?」

「へ? あ、主任おはようございます」

 突然話しかけられたからびっくりしたけど、そうだった主任も早く出社する人だったな。

「ため息吐くと幸せ逃げるって言うよ」

「ため息、吐いてました? すみません」

「ううん、なんだか珍しいなって思っただけだから、気にしないで。でも本当に悩みがあるなら聞くよ」

「ありがとうございます」

 主任も優しい人だなぁ、一瞬喋ってしまいそうになったけど、いやいやこれは自分で何とかしなくては。何とか課長と話すきっかけを……


 それは、突然やってきた。

 しかも向こうから、意外な形で。


「山本さん、飯田課長が呼んでる。急ぎじゃないからその仕事が終わったら第二会議室へ行ってくれる?」

「えぇっ」

 主任の言葉に、これ以上ないくらいに驚いて頭が真っ白になった。

「いつものヒアリングよ、そんなに驚かなくても……」

 主任が不思議そうにしている。

「え、あぁ……そうですね」

 そう、まずは仕事だ。ちゃんとしなくちゃ。

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