第26話
「ご馳走様、また来るわね」
藤井さんに手を振ってお店を出る。
私がお手洗いへ行っている間に、課長が支払いを済ませていた。
「課長、今日は私も払います」
「いいわよ、待たせたお詫びよ」
「割り勘っていう約束でしたよね?」
「ん〜なら、コーヒーご馳走してくれるかしら?」
「え?」
「食事の後ってコーヒー飲みたくなるのよ、これからどう? 時間ない?」
「あります、行きます」
現金なもので、支払い云々よりも課長とまだ一緒にいられる時間の方が私には重要だ。
「そういえばお蕎麦屋さん、メニューにコーヒーはなかったですね」
「そうなの、食後のコーヒーがあればいいのにって藤井さんに言ったこともあるんだけど、ほら、お蕎麦もコーヒーも香りが重要だからね」
「そっか、そうですよね」
お蕎麦を美味しく食べてもらうための拘りなのかもしれない。
「あのね山本さん、これは提案なんだけど」
近くのカフェに移動してコーヒーを注文後、課長は控えめな声で言う。
なんだろう、言い辛そうなので悪い話だろうかと身構える。
「連絡先交換することは可能かしら? いつも長い時間待ってて貰うのが申し訳なくて」
「あ……はい、もちろん」
なんだ、そんなこと? 私としては寧ろ嬉しいし、喜んで交換するに決まってるのに。
そっか、さっきの課長の言葉を思い出す。上司からの強要はパワハラと捉えられかねないのを気にしているのか。
「課長、私はパワハラなんて思いませんから、課長が思っていることどんどん言ってください」
「ほんと? 嫌なことは嫌だって言ってくれる?」
「もちろんです」
課長のことで嫌なことなんて皆無なんだけどね。
やった、課長の連絡先ゲット!
「わ、アイコンの猫ちゃん、可愛い」
「これは実家の
「ですよね、私も動画とか見て癒されてる口です」
「お勧めの動画とかある?」
「任せてください、後でURL送りますね」
「ん、楽しみにしてる」
家に帰ってから私のお気に入りの動画サイトを送った。もちろん今日のお礼も伝えて。
すぐに返信が来る。可愛いスタンプも添えられていた。
そして、おやすみの挨拶を返す。
幸せ過ぎて眠れそうにないが。
課長のことを知れば知るほど好きになっていく、普段は楽しみな週末も、早く過ぎてくれないかと願う。
早く課長に会いたいから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます