知られないように

第27話

 小さくガッツポーズをするのがクセみたい、その動作をする時はいつも嬉しそうで目を細めている。

 表情がコロコロ変わって見ていて飽きないし分かりやすい。それは裏表がないということで信頼出来る。


 連絡先を交換した時もガッツポーズをしていた。喜んでくれたようで安心した。お互いに猫好きだということも判明して共感を得ることも出来た。

 メッセージも定期的に送ってくれるから、私も返す。おつかれさまです、とか、おやすみなさい等の挨拶が多い。

 仕事中には送ることはないし、忙しいことも分かっているため頻繁に送ることもない。節度を守ってくれている。

 食事は月に一回程度にしていて、適正な距離は保っている。

 そう、思っていた。


 私は朝からソワソワしていた。理由はわかっている、今日がその約束の日だから。今日こそは定時に仕事を終わらせたい。午前中はトラブルもなく滞りなく進んでいる。


「なぁ山本、どうしてもダメか?」

 ランチから帰ってくるとそんな声が聞こえた。

「今日は予定があるから」

「そこを何とか! 俺の先輩も来るんだよ、山本に会ってみたいって」

「そんなこと言われても」

「顔出すだけでいいからさ」

 どうやらまた飲み会のお誘いを受けているらしい。通り過ぎる時に一瞬目が合った。

「ごめん相澤、今日は無理」


 律儀な子だから、私との約束を優先させるんだろう。それで同僚とギクシャクしてしまうのは可哀想な気がする。私とは別の日でも構わないのだから。

 私はメッセージを送った。

『仕事の打ち合わせが入ったから、今日の食事の予定はキャンセルして欲しい』と。


 午後は会議があったためフロアに戻ったのは定時の30分前くらいだった。戻る時に休憩スペースの横を通ったら声が聞こえた。

「でかした相澤、本当にいいんだよな、彼女を口説いても」

「いや俺はあいつと付き合ってるわけじゃないから別に……でも先輩、あいつなかなか手強いっすよ」

「あはは、大丈夫だよ、俺はその方が燃えるから」

 なんだかとても、嫌な笑い声だった。

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