第53話

「小春、少し話をしてもいいかしら」

 雛子さんの部屋へお邪魔して、お風呂も済ませて寝室にて、雛子さんは改まっている。どれくらいかというと、ベッドの上に正座をするくらい。

「はい、なんでしょう」

 つられて私も正座で向き合う。

「その、ちょっと聞きにくいことなんだけども」

 モゴモゴと俯く姿は珍しい。

「いいですよ、どんなことでも聞いてください」


「あのね、小春はその……攻める方なの?」

「はい?」

「あ〜いや、ちょっと調べたんだけどね、攻める人は逆に攻められるのが嫌な人もいるらしいじゃない?」

「あぁ」

 タチかネコかってことかぁ。

「こういうことって、しっかり話し合った方がいいって……」

「そうですね、私は今まではどちらかというとタチ、つまり攻める側が多かったけど、どちらも大丈夫ですよ」

「そうなの」

 心なしか嬉しそうな顔をする。

「えっと、雛子さんは? 触れられるの、大丈夫ですか?」

「私はーー小春が初めてだったから。あの時はとても、その……良かったの。だからそれは大丈夫」

 真っ赤になりながら声も小さくなる。恥ずかしくてもしっかり話そうとしてくれる、そういうところも好きだなと思う。

「でもねーー」

 そしてまた、真剣な眼差しで訴える。

「最近ね、小春のことを考えると触れたくて仕方ないの、ムラムラ……あ、じゃなくて、なんかこうギュッてしたくなるくらい可愛くて、だからね、今日はそのーー私が攻めてみたいなって……思ったりして?」

 疑問系なのは照れ隠しなのだろうが、それよりも私の事をそんなふうに思ってくれているなんて、嬉しくてたまらない。

「いいですよ、雛子さんになら何をされても大丈夫です」

「え、いいの?」

「はい、お願いします」

 雛子さんは心底ホッとしたような、目尻が下がって柔らかな笑顔になった。


「雛子さん、大好きです」

「小春、私も」

 そう言って、雛子さんの綺麗な顔が近づいてきたので、私は目を閉じた。

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